短編
□【何故、】
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―――雨の中、逆らうことなく雨にうたれながら、彼女は言った。
「何故、我々は戦うのでしょう?」
答えは求めていないようで、彼女はただ上を見つめて立っていた。
泥だらけの頬に、雨とは違う一筋が流れた。
「元をたどれば同じなのに、何故憎しみ合うのですか?」
己は答えられず、ただその場に立っていた。
「もがいても何も変わらない。…総督もわかっているのでは?」
目を合わせずにただ、彼女は言った。
「何故?傷つけあっても大事なものってなんでしょうね。」
降り続く雨に手をのばし、彼女は続ける。
「こんな世、誰が望むのですか?」
「自分に抗うために、戦うんだ。」
ただ、それしか言えなかった。
彼女は笑って、その場に崩れた。
「…あぁ…あぁ…。」
「いつか己に打ち勝とう。」
己は、彼女に手をのばした。
終