短編
□【好きだといって】
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私…と入江さんが付き合い始めたのは、半年ほど前…。
私が、想いを伝えた。
あの時のことは、鮮明に覚えている。
あの日、入江さんはこう答えた。
「いいよ。別に嫌いじゃないし、君のこと僕も好きだし。」
嬉しかった。
入江さんが人を好きというのを、初めて聞いた。
元々入江さんは、友達や仲間などそういう関係であっても、『好き』という言葉を使わない。
それは、周知の事実だった。
入江さんが、私のことを好きと言ったのは…最初で…最後だった。
「好きって言って下さい。」
「嫌だよ。何で言わなくちゃいけないのか分かんないんだけど。」
何度言っても…返事はそればかりだった。
苦しい。
入江さんが、私を大切に思ってる。
それすら偽りと思えてくる。
「入江さん。私に好きと言ってください。」
「くどいよ。鬱陶しい。」
最近は、そう言ってくるようになった。
苦しい。
入江さんに抱く、自らの気持ちさえも偽りへと堕ちていく。
私は入江さんが…。
『好き』
嘘でもいい。
その言葉が、欲しかった。
入江さんに抱きしめられる、口付けされる…そんなものより、一言が欲しかった。
でも、私は…入江九一を愛そうと思う。
いつか好きだと言ってくれることを願って。
終わり