短編
□【それでも私は】
1ページ/1ページ
「愛してる…富…。」
「私もですよ。」
私は何も言わず、二人を見つめていた。
相思相愛の二人は、仏すら否定できないほど幸せそうだった。
色白で背が高く、文武両道の武市瑞山。
美しく、温厚で静かな富。
その二人の幸せを、壊すことなんて…出来なかった。
武市と私は、昔からずっと一緒だった。
私が恋心を抱くのも無理はなかった。
いつの間にか、頬に涙が伝った。
「………。」
こんな想い…抱かなければ…。
そう思ったのは、もうすでに遅かったのだ。
どうか、私の気持ちに気付かないで…。
「…どうした?」
「いえ…。」
私は笑って自らに嘯いた。
終わり