短編

□【桜舞う頃に】
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時の大老、井伊直弼が自らに刃向かう者を処刑した。

詳しい説明など要らない。

それだけが…真実なのだから。

「松陰先生。」

吉田松陰が処刑された。

そう聞いたのは、いつだったか。

死罪だった。

武士として…切腹も許されなかった。

「松陰先生。」

聞くところによれば、松陰先生は老中暗殺計画から自らの思想まですべて語ったらしい。

「松…陰先生。」

あの人らしい。

そう思った。

それが…その覚悟が大和魂なんだ。

「松陰…松陰先生!」

何故、私を置いていったのですか?

私は足手まといですか?

零れる涙もすべて届かない。

「先生っ!先生っ!」

この声も全て届かない。

先生はおっしゃった言葉だけを…抱いている。

その言葉に囚われる。

「『桜舞う頃にまた会いましょう』」

幕府の役人に連れていかれる時に先生…言いましたよね…。

「先生がいないのに、どこに桜は咲きますか?」


その涙も全て桜となる。

終わり

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