弐
□【呪縛】
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「…桂さん。」
腕の中にあるのは、あの日の記憶を生々しく蘇らせた。
光の無い瞳で私の名を呼ぶ少女は、私が守らなくてはならない。
あの…志高い瞳の男は、その重い責任を、役目を私に託していった。
「…桂さん。」
置き去ったかつての名。
その名を呼ぶのは、私に罪を忘れさせぬためのもの。
何故、私はあの男を助けてやれず、ただこのか弱い娘すら守られぬのか。
「晋作さんは、戻ってこないのですよ。」
よっぽど、私などより大人びた少女は自嘲気味に笑った。
分かっているなら、その涙はなんなのだ。
「桂さん。」
私を縛り付ける、過去の亡霊。
胸につっかえて息ができない。
「桂さん。私は、大丈夫です。」
もがき苦しみ、空回る。
少女は私が守ることをせずとも、強く生きている。
「桂さん。」
―――何を、苦しむのです?
晋作君、君が残したのは守るべき少女だけではなく、私を苦しめる枷(呪縛)だった。
終