姫‐ヒメ‐

□二、こんにちは、
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「……早く起きぬか。」



―――真っ暗な意識の中に溶けていく声。

聞いたことのない声だった。

もちろん、あの『神』とかいう奴とは違う声。

渋みのある、大人の声。


「…誰?」

なんか、ベタ。

そんなことを思いながら、重い瞼を開ける。


ただの光がすごく眩しい。


「…起きぬか。」

「いっ!」



…思い切り、額を何かで叩かれた。

絶対手じゃない何か。


「…扇子?!扇子で人は叩いちゃいけないんですよ!」

子供っぽい正論が一番初めに浮かんだ私の乏しいボキャブラリー。

あぁ、恥ずかしい。

でも考えても多分それ以上浮かばないので『その人』を睨む。


「何を言う。貴様が勝手に私の家で倒れているのが悪い。」

「え?」

『私の家』という一言であたりを見回す。


…え?知らない場所なんですけれど。

右に障子、左に障子。
床は畳。あ、良い香り。

「おい、聞いておるか。」

「は、はい。」

なんとも和風なお家。

ちなみに目の前の『その人』も和風。

着物がすごく似合ってる。

長い髪も和って感じでめちゃくちゃ似合う。


「…おい。」

「は、はい。」

これってもしかして、

…いやもしかしなくとも…



「不法侵入?」

「あぁ。」




水城湊人生初、犯罪を犯しちゃったもようです。

どうしよう?

通報?

やだよ!この年で前科持ち?

あぁ…夢が…仕事がぁ…。

学校生活が気まずい…。


「……聞いておらぬのか?」

「聞いております!」



もしかして、トリップって夢?
うん、それがいい。

早く帰って新刊を読むんだ、私。


「奉行所に突き出すぞ。」

……『その人』から聞こえた一言。


「奉行所?」

「…ふざけるのもいい加減にするが良い。」


…警察…とかじゃなくて?


「あの…お兄さん?」

おじさんかお兄さんで悩んだけど、失礼のないようお兄さんで。

年上を貴方とか呼ぶのも気が引ける。


「…なんだ?」

振り向いて下さった。

とりあえず聞こう。



――「ここは、どこですか?」 
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