姫‐ヒメ‐

□五、居候(前篇)
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『送っていく。』

そう言われ、隣を歩くのは


「どうかしたか?」
「い、いえ!!」

隣を歩くのが嫌になる美形。

久坂玄機という男の人である。


「秀三郎が迷惑をかけました。すまない。お嬢さん。」
「いえ、私こそ遊んでもらっちゃって。」

話すだけで緊張する。

そのくらい、美形なのだ。

「…湊…さんといいましたね。」
「あ…はい。」

それにものすごくいい香りがする…。

あぁ、美形の特権ってやつですね。わかります。

…なんか悲しくなってきた。

ちょうど目の前が涙で霞んできたころ、玄機さんは口を開いた。

「お家はどこでしょう。」

…あ。

随分と真剣な視線に、私は冷や汗を流す。

家って、何処って私こそ聞きたいですよ。


…とは、言えない…!!

ちらりと玄機さんを見上げると、ばっちり目が合う。

夜の闇の中、月の光をうけてきらきらと瞳が光っている。

…って私の答え待ちですね。


本当私って不幸だと思う。
神様は私に冷たい。

…神様と言えば、私をここに飛ばしたのも…。

ここにきてまだ1日もたっていないのに、懐かしく感じるのは、今日一日が長かったから。

日の長さは、あまり変わってないだろうが、疲れもプラスされ長く感じる。


「家が…ない?」

玄機さんが首を傾げる。

「ま、まさか。」

かなりどもる。

…もう言っちゃおうかな…。

曖昧な覚悟で再び玄機さんを見ると、眉間に眉を寄せて私を見ていた。

これは、言った方がいいなぁ…。

私は覚悟を決めて口を開いた。
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