血桜葉隠【大和魂】
□第八志 君がために
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「で、君名前は?」
沖田が士桜に問いかけた。
士桜は口を閉ざす。が土方の鋭い視線に口を開いた。
「##NAME2##。」
もちろん本名は語らない。顔は知れてないといえど、久坂玄瑞の妹だ。
名くらいは公に通っている。
「へぇ…##NAME2##って言うんだ。」
「呼び捨てにするな。」
士桜は沖田を睨みつけた。
「恐いね。」
沖田は嫌味っぽく笑った。
「でどうしたの?」
沖田が笑う。
苛立ちが沸くが士桜はまるで、沖田の口調に乗せられるように口を開いた。
勿論のこと攘夷志士を連想させるような、事柄は出さず、遠回りに話していった。
兄の死…
高杉の誘い…
桂の誘い…
そして高杉の態度…
士桜の中で一つひとつ整理していくと、
見えなかったものや現実が見えてきた。
兄の死からまだ49日も経っていないこと、高杉が居ないと生きていけないこと…。
そうすると一つの結論が見えてきた。
何故、気付かなかったのか。冷静になれば分かったはずだ。
“私は…”
あの時こう答えるべきだった。
“高杉さんとともにいたい”
「##NAME2##さん?」
沖田が士桜を覗き込んだ。
「な…なんですか…!」
「君のなかでは答えが出たのかな?」
士桜は遠慮がちに頷いた。
「あのさ…。」
沖田が神妙な顔になる。
「それは嫉妬って言うんじゃないかな?」
「ふぇ?」
情けない声が漏れた。
予想していなかった言葉が沖田から出たのだ。
士桜は頬を赤く染めた。
そんなわけはない。
わかっているはずなのに頬は赤く染まる。
「そ…そんな!」
沖田が口を開いたとき、沖田よりも先に土方が声を出した。
「随分嫉妬深い男じゃねーか。」
沖田はくすくすと笑っている。
「顔が赤いよ。素直なんだね、君。」
「なっ!」
士桜は必死に言い返そうとするが、言葉が見つからず、肯定したようになってしまっていた。
「さぁ。いきなよ。その人の元にさ。待ってるんじゃない?」
士桜は反射的に頭を下げていた。
「有難う御座いました!」
真実か嘘かは別として、『高杉の傍にいたい』そう気付かせたのは他でもない。
新撰組なのだ。
「いいんだよ。##NAME2##さん。」
沖田の一言に新撰組の幹部達が頷いた。
士桜が出て行こうとしたときだった。
「副長!屯所付近に高杉晋作と思われる男が!」
現れた隊士の一言で空気が凍りついた。
“そんな…”
士桜は声も出なくなった。
「副長!屯所に副長が連れてきた少女の保護者と名乗る人物が!」
いきなりの二つの報告に土方は舌打ちした。
「おい!おめーら!行くぞ!」
そう声を上げてから土方は士桜に目を戻した。
「おい。##NAME2##っつったか?おめーはその保護者と帰れ。斉藤。保護者のとこまでつれてってやってくれ。」
「はい。」
「いくぞ!」
「応っ!」
士桜は斉藤に連れられて走っていた。
士桜は内心、心臓が止まるほどに心配している。
“高杉さん…!”
保護者…そこに居たのは伊藤だった。
「おい。##NAME2##…さん。あれは誰だ?」
士桜は迷いながら言った。
「お…叔父です!」
「そうか。」
伊藤は闇に溶け込むように立っていた。
「今近くに過激派の攘夷志士がいる。気をつけていけ。」
斉藤は士桜を伊藤に引き渡すと土方達のいる場所へ向かっていった。
………「伊藤さん!高杉さんは?」
伊藤と士桜は走っていた。
伊藤は初め口を開かなかったが、やがて口を開いた。
「あれは狂介です。高杉さんに紋羽織を借りたんです。警備の目をこちらに向けぬように。」
士桜は安堵のため息を漏らしたが、すぐに小さな悲鳴を上げた。
「なら山県さんが危ないじゃないですか!」
伊藤は自らに言い聞かせるように呟いた。
「狂介なら…大丈夫です。」
士桜は自らのせいだという責任感に押し潰されそうになっていた。
「山県さん…。」
ただ士桜は山県の無事を祈ることしかできなかった。
第九志 満月の狂愛