血桜葉隠【大和魂】

□第五志 桂の誘い
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 「楽しい時は早く過ぎるものだな。士桜。晋作君。」

陽は傾き時は夕刻。

空を見上げ桂がいった。

士桜は静かにうなづいた。

高杉は視線だけを桂においた。

桂は続ける。

「もう帰らねばならん。」

士桜は一瞬切なそうな笑みを浮かべた。

「一体何をなさりにいらしたのです?」

高杉がぽつりと呟いた。

するといきなり、桂が声を上げた。

「そうだった。」

そして士桜の肩をつかむ。

「私と共に来ないか?士桜。」

一瞬時が止まったように思えた。

士桜はもちろん驚いているが、高杉は驚きと怒りの表情を浮かべていた。

「……えっと…桂さん?」

士桜は困惑した表情で桂を見つめた。

桂は真剣な眼差しで士桜を見つめて言う。

「君は攘夷に関ってはならない。君のような女子が戦で命を落とすなど、無駄死にだ。」

『無駄死に』その一言に高杉が怒ることは目に見えていた。

桂も分かっていただろう。

「桂っ!貴様!武士…いや、攘夷の志士が戦で命を落とすのが無駄だというのか!」

「高杉さんっ!」

高杉は我を忘れ桂に対し、抜刀していた。

士桜は止めに入るが、今の高杉にかける言葉が見つからなかった。

「桂!貴様の言葉、松陰先生への愚弄ととれる!許さぬ!許さん!」

ついに高杉が刀を抜き放った。

「高杉さんっ!やめてください!やめてっ!」

士桜は桂を見る。

まったく焦った様子はなく、落ち着いている。

「かつ「『死して不朽の見込みあらばいつでも死ぬべし。生きて大業の見込みあらばいつでも生くべし』」

士桜の言葉をさえぎって、桂が言った。

高杉の動きが止まる。

「晋作君。松陰師が、君に残した言葉ではないのか?」
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