SHORT

□無題
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いつものように庭で薔薇の手入れをしていると、足音がした。

誰かがこちらへ向かってくる、そう思いつつ音のする方を見やると、ひらひらと女な使う様なフリルのたくさん付いたベージュ色の日傘を差したフランシスの姿があった。
不思議なぐらい似合っていて、思わず立ち上がってしまった。


「よお、坊っちゃん。精が出るねー」

「よお…お前、曇りだってのに何で日傘なんか差してるんだ?」

「だって曇りの日の方が紫外線強いんだぜー?こんな肌理細やかな美しいお肌が荒れたら世の中のお兄さんのファンが泣いちゃうわっ」

「へー」


どうでもいい…。どちらかというとお前の差してる日傘のフリルの主張の強さに物申したいよ、俺は。
会話をするのが面倒になったのでしゃがみ込んで薔薇の方へと視線を戻すと、焦った様にフランシスが近寄ってくる。


「なーアーサー、アーサーってば」

「あーもう、何だよ」


しつこいのは嫌だ、そう突っぱねてやろうと思っていたのに。体が硬直してしまった。
原因は勿論目の前の髭野郎だ。
軽いリップ音が付加された、触れるだけのキスをされたのだ。

更に言えば此処は俺の家の庭、つまりは妖精さん達や客人が、いつやってくるかも知れない場所で。
しかし日傘で二人をすっぽり隠しているので、キスした事は誰にも見られなかった事になる。
…成程、日傘はこういう時の為の道具なのか。


「どこぞのチープな少女漫画でありそうなシチュエーションだな」

「そうは言っても、俺が相手なら嫌いじゃないでしょ?」

「……」


違うとすぐに反論出来ない自分が恨めしい。
だって、あんなに幸せそうに笑うお前を見たら、反論なんか出来るほうが可笑しいだろ。


「…嫌いじゃないという訳でもない事もない」

「ふはっ、素直じゃないねぇ。そういう所も好きよ!」


 
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