二周年企画

□春風に手をかざして
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びゅう、と吹き抜けた風に、リュウは思わず手のひらで顔をかばった。
今日は風が強い。野に木々に色付いた花を盛大に散らして、視界いっぱいに淡い色の花びらが舞っている。

陽気に誘われて庭で読み物を始めてしまったが、これは外での作業には向かなかったと今更ながらに思う。


「ねぇ、これって新しい薬草?」
「――っ!?」


突然に声を掛けられて、リュウは飛び上がって驚いた。振り向いた先には、目をぱちぱちとさせる少女。


「あ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんだけど」
「え、あ、いや…」
「あんまり勢いよく振り返るから私もびっくりしちゃった」


少女はそう、いたずらっぽく笑った。
彼女には見覚えがある。確か、どこかの貴族のご令嬢だったはずだ。年の頃はリュウと同じほどだろうか。

少女は驚いて固まったままのリュウをよそに、ひょいとリュウの手元にあった小ぶりの鉢植えを覗き込んだ。


「やっぱり見慣れないものだわ、これ」
「…ああ、うん。色々交配をさせて――最近栽培に成功した新しい品種だから…」
「へーえ。すごいのね、あなた」
「いや…」


普通に会話をしているが、貴族の令嬢が一体何の用なんだろう。ここは薬室で管理している庭だ。普通、客人が訪れるような場所ではない。


「あの、何か用事ですか?」
「んー用事っていうか、探検?」
「た、たんけん…?」
「そう!お父様達の話には飽きちゃったんだもの」
「…それってまずいんじゃ…」
「大丈夫よ。お腹が痛いから診てもらうって言ってきたもの」
「………」


どうやら、かなり活発な性格の人のようだ。
どう返したらいいのか考えていると、少女の関心はすでに別にあるらしく、「それより」と話題を変えられてしまった。


「ねぇあなた、城の薬室の人なんでしょう?もしかしてリュウさん?」
「そう、だけど…」
「やっぱり!私一度あなたに会いたかったの」
「おれに…?」
「私ね、薬草とか医療に興味があって、こう見えても少し薬学をかじってるのよ」


意外でしょ、と少女は得意そうに胸を張った。
確かに貴族の娘が学問など、珍しいことだ。しかしなるほど、それでこれが新種だと分かったのかと納得する。
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