二周年企画

□君へ届く声
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「あのな夢子、」
「わかった」
「は、…ああ、それじゃ」
「ゼンの言いたいことはわかった。でも私はゼンがなんて言ったって行くから」
「っ、おい!」


ゼンは慌てて一歩踏み出し、こちらに手を伸ばした。それを一歩退いて避けてから碧眼を見つめ返す。


「それに、もうゼンには出掛ける報告はしないようにする」


言い捨てるようにして、顔も見ず背を向けた。

去り際に私の名前を呼ぶ声を後ろに聞いた――――。





城の外は穏やかな晴天だった。ちょうど街へ向かう馬車を見付けてそれに乗り合って城下を目指す。

不規則にがたごとと揺れる荷馬車の上で、私はずっとゼンの言葉を思い出していた。
ゼンは普段から女中として、また友人として私のことを気に掛けてくれるけれど、あんな言い方をするのは珍しい。だからついこちらも喧嘩腰になってしまったのだが。

ため息ひとつ、遠くに見える街の輪郭を眺めて思いを振り払うように首を振った。




クラリネスの首都、ウィスタルの城下町。ここはいつ来ても賑やかに迎えてくれる。気持ち歩幅を広げて大通りを行けば、実にいい気分だった。

そうして活気に溢れる街を歩いていると、ゼンとのいさかいで尖った気持ちまでもが、ゆるゆると丸くなっていくような気がする。




―――しかし。
そんな浮かれた気分も、長くは続かなかった。


「まあお嬢さん、そう言いなさんなや」
「いえもう帰りますので」
「へえ、帰る。そりゃどこへ?」


下毘た笑顔を浮かべ、目の前の男はそう言った。
十人近くの屈強な男達に囲まれて私はなんとか気丈を保って立っている。けれどこの虚勢もあまり持ちそうにはない。


ああもう、どうしてこうなってしまったんだろう。さっきまで久しぶりの休日を楽しんでいたはずなのに、この急展開はなんなの。

欲しいものを見て回り、もう少し散歩をしようと思っていつもは歩かない道へ入り込んだ。
そこで道を尋ねられ、街はずれまでやって来て―――気付いたら男に囲まれていた。
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