二周年企画
□君へ届く声
1ページ/6ページ
私が女中としてここウィスタル城へ奉公に来てからもうすぐ一年。今日は久しぶりの休暇だった。
何をしようか身支度を整えながら考えて、そうだ、買い物に行こうと思い立つ。そう思うと途端に欲しいものが色々と浮かんでくるものだ。
そして、以前ゼンから『街に出る時には知らせるように』と言われていたことが頭をよぎった。
どうせなら一緒に出掛けた方が色々と都合がいいだろうという事らしかったが、変な約束をしてしまったなぁと思う。
「――買い物?」
ゼンの部屋を訪ねてその旨を告げると、なぜか相手はしかめ面にこちらを見た。
「うん。本も見たいし、新しい服を仕立てようかなぁと思って」
「今からか?」
「えーっとまぁ、午後からかな」
「午後…」
ゼンは机の紙束に目を遣って少し考えたあと、無理か…、と小さく呟いた。
「明日じゃダメなのか?」
「うん。お休みは今日だけだし」
「…なら、次の休みにしたらどうだ?」
「あの、…ゼンはさっきから何が言いたいの?」
先ほどからのゼンは、私を街へ行かせまいとしているようだ。
ゼンは一瞬ためらってから、まっすぐにこちらを見た。
「今日はやめておけ。おまえ一人で出歩くとロクな事がないだろう」
「…そうだっけ?」
「そうだ!」
きっぱり言い切られ、ため息までつかれてしまった。けれど思い返してみてもさして文句を言われるような心当たりはない。
確かに城下は慣れない道だが、そんなに危ないものでもないのに。
「とにかく、一人ではダメだ。俺か、そうでなきゃ誰か付いてもらえる奴と一緒の時にしろ」
「大丈夫だよ子供じゃないんだし」
「今まで大丈夫じゃなかったから言ってるんだ」
苦笑いで返したところにかぶせられた、決めつけるような口振り。
カチンときた。
「……そんな言い方はないんじゃない?ゼンには、もっと信用してほしいな」
「信用とかそういう事じゃない」
ゼンは変わらずに正面から私を見て言う。その冷静な態度に余計苛立つ。