二周年企画

□夏色サイダー
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それはほとんど勢いだった。普段なら言えないだろうセリフが、気が付いたら口をついて出た。


「っ伊勢崎さん!」
「ん?」
「連絡先、教えてもらってもいいですか!」


私も自分でびっくりしたし、伊勢崎さんもびっくりしていた。そりゃあそうだろう。叫ぶような声だったので、周りの人にもちらりと見られてしまった。


「おっ、俺の?あ、――うん、それは構わねーけど…。えっと、今は抜けられないからちょっと…あーじゃあ、あと三十分したらまた来れ、る?」
「はいっ」



私はラムネを握り締め、どきどきする胸を押さえたまま皆の待つ公園まで早歩きで向かった。
薄暗い中に浮かび上がるように見えるベンチ。友人達はそこに座っていた。


「夢子ー遅かったね」
「……いた!」


第一声にそうひとこと叫ぶと、案の定不思議な顔をされる。


「はっ?」
「いたの!屋台に!ラムネ売ってて、伊勢崎さん!」
「…え?……えーっ!?伊勢崎さんて、夢子がずっと話してた神山のっ?」


私は興奮しながらこくこく頷く。
友達も思わずといった感じで立ち上がって、前のめりに私に迫ってくる。


「それでっどうしたの?話とかしたの!?」
「した!連絡先教えてくださいって言った!」


私の報告に、友達は再びわあっと盛り上がる。


「ほんとにーっ?」
「すごいじゃん!」
「でも、仕事中だったからちょっと待ってって言われて、後でまた来てって…」
「これはもう、夢子女の見せどころだね」
「えぇ?」
「もうさ、うちらのことはいいから頑張ってきな!」
「いや頑張るって、もう十分頑張ってるよーこれ以上何か頑張ったらどきどきしすぎて吐けそう」


落ち着かなくてはと私は買ったばかりのラムネに口をつけた。しゅわしゅわと心地良い刺激と共に、独特の香りが喉や鼻腔を通り抜けていく。
そういえばのどが渇いていたんだっけと、飲みながら思い出した。


「ダメだって!今日花火大会なんだよ!?ここ会場!待ち合わせてるんでしょ!?二人で一緒に花火見るんだよ!」
「ええっ?無理無理無理!絶対無理!!」
「夢子。絶っ対後悔するよ。伊勢崎さんを誘うの」
「うぇぇ〜…」


しばらくそれは無理だと抵抗するものの、結局ほら行ってこい、戻ってきたら許さんと見送られることになってしまった。友達なりの優しさなんだろうけど、あの目つきは若干怖い。
私は再び、賑わうお祭りの中心へと向かった。



先ほどの屋台を脇から覗くと、伊勢崎さんは相変わらず忙しそうにしていた。けれど私に気付くと、手を止めて声を掛けてくれる。


「あ、ごめんもう終わるから!」
「…はいっ」


やっぱり、彼はものすごく人がいい。ほとんど他人の私のために、こうして時間を割いてくれる。


「お待たせ、ごめん!待たしちゃって」
「いえ、私が無理にお願いしちゃったので…!伊勢崎さんも忙しいのにすみません」
「いーって、おかげで早く抜けられたし」


伊勢崎さんはにかっと笑うと不意に私の腕を取った。浴衣の布越しの感触に心臓が跳ねて、あり得ないぐらい動悸がする。


「…っ!」
「大丈夫?!顔赤いし暑そうだけどあっちの方が人少ないから、行こう」
「は、はい…」


顔が赤いのも、暑そうなのも全部、あなたのおかげなんですが!ああ、なんだかくらくらしてきた。
私は手を引かれるまま大通りを逸れ、静かな脇道に入った。
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