二周年企画

□夏色サイダー
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夕暮れ、薄闇に明かりの灯りだした大通り。私はきょろきょろと辺りを見回しながら、過ぎる景色を楽しみつつ、人波に流されるように往来を行く。
立ち並ぶのは活気あふれる屋台。いつもと違って歩幅が狭く歩きづらいのは、浴衣を着ているせいだ。


何を隠そう、今日は地元の花火大会なのだ。それなりに規模も大きいので、毎年なかなかに盛り上がっている。私も例年と同じように、友達と誘い合わせて見物にやって来ていた。


花火が上がる時間にはまだ早い。仲のいい友達二人と、女だけでわいわい屋台を冷やかしたり、それぞれ自分の夏休みの成果について話したりして、私達はこの特別な雰囲気を満喫していた。
いつもと違う自分と、周りの浮かれた雰囲気に、否が応でも気分が高揚してしまう。


「あーあ〜。これで今年の夏も終わりかなぁ」
「私はあと夏期講習があるよ」
「夢子ーそれは違うから!なんかこうさぁ何かないかなぁ」
「何かって」
「テンション上がるかんじのハプニング?っていうかイベントみたいな?」
「ないない。そうそうないってそんなの」


だよねぇと顔を見合わせて笑い合う。
私の高校一年の夏は普通に、平凡に過ぎていった。それでも思い出はそれなりにできたし、ひと月前の終業式から今までをなぞって、楽しかったと思い返す。


「ねえねえ、どっか座らない?私足痛くなってきた」
「あー、ね。私も疲れた」


友達の一人が提案して、歩き疲れた私達はお祭り会場の近くにある公園へ向かおうということになった。


「あ、待って私のど乾いちゃった。飲み物買ってくるから、先に行ってて」


先を歩く友人二人にそう断って、自分は二人とは反対の流れに向かう。


「りょーかーい。迷子になるなよー」
「なりませんーっじゃあ後でね」


“ラムネ”の文字を掲げる手近な屋台を覗く。ここの屋台では、飲み物の他におにぎりや、焼き鳥なんかも売っていた。
お腹はいっぱいなんだけど、美味しそうだなぁなんて思いながら、ふと店の売り子をしている人を見た。
そしてそのまま、私の視線は固定されて動かなくなった。すぐに私に気付いたその人と、視線がぶつかる。


「いらっしゃい!ドリンクよく冷えてます!一緒に焼き鳥もいかがすかー」
「…あっ、あの……伊勢崎、さん?」
「へっ?あー……っと?―…あ!あーっ!こないだ派手に転んだ子!」
「…そうです」


覚えていてもらえた事は嬉しいけど、それにしても情けない第一印象だ。つい、笑顔がぎこちなくなる。


「この間はありがとうございました」
「いやいや、ケガがなくて良かった!今日は一人?」
「いえ、学校の友達と一緒です。伊勢崎さんは、お手伝いですか?」
「そうなんだよー俺も遊びに来てたんだけどさぁ、知り合いに留守番頼まちゃって。あ、よかったら何かいかがっすか!」
「えっとじゃ、じゃあ、ラムネをひとつお願いします」
「オッケーラムネね、待って」


伊勢崎さんはラムネを氷水から取り出すと、タオルで水滴を拭って渡してくれた。それでも私は取り落としそうで、キンと冷えたラムネ瓶を慌てて握りしめる。



まさか、こんな風に会えるなんて。
初めて会った日からひと月。あの日から私は彼にもう一度会いたい一心で、神山の校舎の近くに行ってみたり、神山生のよく集まっている場所に行ってみたりした。
友達にも何十回と彼の話をして鬱陶しがられてたぐらいだ。

それが、今こうして唐突に、実際に彼が目の前にいるなんて。動揺も挙動不審も仕方ないんじゃないだろうか。手が震えてないだけマシだと思う。
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