二周年企画

□signal
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「あ、野上く…」
「悪い遅くなった。何、どうかした?」


現れた野上くんに、目の前の女の子は分かりやすく表情を変える。


「野上くん!」
「あれ、…」
「久しぶりだねっ!野上くんも今授業ないのー?」
「…そうだけど」
「ちょうど会えて嬉しいよー!びっくりした!」
「あ、そ?」


語尾にハートを散らしながら話す彼女に対し、野上くんはどこか素っ気ない。
私は突然置いてきぼりになったような気分でそれを見ていた。


「こないだは野上くん途中で帰っちゃうからみんな残念がってたよー。なんかね、」
「ねえ何か用?」
「―あ、えっと用っていうか…。あの、野上くん。この子…、ほんとに野上くんの彼女じゃないの?」


その質問には私もどきりとして息を飲んだ。別にそんなことない、って言って終わりの話なのに、野上くんとそういう風に思われていたという事に、どぎまぎしてしまう。
すると恐る恐るといった感じで尋ねた彼女に、野上くんは私へ視線を向けながら答えた。


「夢子?あーまぁ、うん。本当はそうなんだよね」
「!?」


私はびっくりして野上くんを見上げ、目の前の子は明らかにショックを受けた表情で固まってしまう。何を言っているんだこいつは―――っ!


「え、………あ、そうなんだ?」
「じゃあ俺これからこいつと約束してるから」
「っ、そっか…わかった。じゃ、またね」


彼女の去り際にものすごいガンをとばされた。もしかしてどころか間違いなく敵視されている。
さり気なくへこむ私を余所に、野上くんは何事もなかったかのように丸いテーブルの反対側、私の正面に座った。いつの間に買ったのか、その手にはドリンクのグラスがある。


「夢子?どうかした?」
「どうかしたじゃないよっ!なんであんな誤解されるようなこと…」
「ああ、ごめん。あの子、夢子は知り合いじゃないよね。もしかして何か言われた?」


そう問われて、私は反射的にさっきの女の子から言われた言葉を思い出した。
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