二周年企画
□signal
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「おっそいなぁー…」
金曜日の午後。私は大学構内のカフェで野上くんを待っていた。
入学式から少し経って、いくらか慣れたキャンパスライフはなかなかに充実している。新しく友達もできたし、高校の時とは違う大学の講義は大変だけど楽しい。
今日は今度の授業でディスカッションがあるから、その打ち合わせをする約束をしているのだが、約束の時間から三十分、彼はまだ来ない。
昼休みにサークルの人達と集まるって言っていたから、それが長引いてるんだろう。
どうせ午後は授業もないし、のんびり待とうとカフェオレの入ったカップに指をかけた時だった。
「あの、すいません」
突然呼ばれて振り向くと、一人の女の子が立っていた。
「…?はい」
「あなた、野上くんの何なんですか?」
「……………え、っとあの、何、というのはどういう意味でしょうか…?」
私は唐突すぎるその言葉の意味が理解できずに、声を出すまでずいぶん間が開いてしまう。
「付き合ってるんですか?」
「え、や、…あの」
ていうかあなたは誰なの?
いきなり現れてよくわからない質問をしているけど、こんな知り合いがいただろうか。思いだそうとしても、やっぱり記憶の中にはいなかった。
そして私はそれを尋ねるタイミングを逸し、彼女は名乗る気がないらしい。
「最近よく一緒にいますよね」
「まぁ…取ってる授業がかぶってるので…」
野上くんとは同じ講義を多く選択していて、一週間のうちほとんど毎日顔を合わせている。でもそれが気に入らないと言われても、私にはどうしようもない。
「あの、正直困るんです。うちらみんな野上くんのファンでずっと応援してたのに、なんであなたみたいな人が野上くんと一緒にいるのかなって」
「はっ?な…っあの!」
あんまりな言い分にふつふつと怒りがわいてくる。一言ってやろうと息を吸い込んだところで、後ろに気配を感じて、振り返った。