二周年企画

□オヤスミの条件
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「…食事は?」
「まだ…」
「朝から何も食べてないのか!?」
「えーっと…きのうのお昼から」
「はあっ?」


呆れてつい大きな声が出た。夢子は一瞬目をつむってこめかみを押さえる。


「だって作るのしんどいし…お腹空かないし」
「わかった何か作るから寝てろ。ったくそんな薄着で…」
「…わっ」


いかにも寒々しい寝間着姿に、着ていた上着を掛けてやる。それでくるむようにして肩を抱きながら背中を押した。


「いいからそれ着て布団戻れ」
「ごめんね、ゆい…」
「ああ。出来たら持ってくからちゃんと寝てろよ」
「はぁー…い」


倉田は早速と1Kの部屋の小さなキッチンに材料を広げている。

羽織った上着からふわりと自分を包むにおいに、夢子は心が安らぐように思えた。
正直こうして立っているのも辛かったので、言われるままに大人しく部屋へ戻って布団に潜り込む。



―――…うつらうつらと、何か夢を見ていたような気がする。それらは流れるように通りすぎていくと、すぐに消えてしまった。


そうやってしばらく微睡んでいると、不意に遠くに誰かの気配がする。それから何かが触れたような感覚。何かはよく分からなかったけれど、随分幸せなもののように感じられた。
次いでひやりとしたものを受けて、ようやく意識が浮かび上がる。夢子は薄くまぶたを押し上げて頭が動き出すのを待った。


「ゆい…?」


一瞬なぜ自分の恋人がいるのかと、しゃんとしない意識で考える。
ああそうだ、ごはん――――。
思い至って、机に置かれた食器に目をやった。
まだ定まりきらない夢子の視線から逃れるように、倉田は少し慌てたように居住まいを直す。


「あ…、悪い、起こした?」
「んー…平気」


ゆっくりと枕に身を預けるようにして起き上がる。
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