二周年企画
□オヤスミの条件
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――ピンポーン
「…はぁーい」
ベルの音に呼ばれ、夢子は重い体を引きずりながら玄関まで向かった。
熱に頭痛に寒気。前日から続く体の不調は典型的な風邪の症状だ。
こういう時、一人暮らしの身はつらい。
ベッドから降りて、一歩一歩慎重に扉の前に向かうと、向こう側からは少し不機嫌そうな声が聞こえた。
「夢子?いるのか?」
耳慣れた声に鍵を開けて予想通りのその顔を見ると、途端に脱力感に襲われる。
「……ゆい…来てくれたんだ」
「当たり前だろっ!大丈夫なのか?!」
倉田は額に汗をにじませ、息をあげて立っていた。
手には、スーパーやドラッグストアのビニール袋。肩にかけられた大きな荷物を見るに、大学から戻るすがらに寄ってくれたらしい。
「あー…うんだいじょうぶ、ありがとう、たすかる」
夢子は壁にもたれかかったままへらりと笑った。その声はかすれて、目には力がない。
倉田はためらいなく家の中へ上がると、ぐったりとした夢子の腕を取った。
「おい夢子?」
「へいきだよ、ずっと寝てたし…」
頬に触れると、それだけで熱の高さが容易に知ることができる。
夢子の想像以上の容態に、倉田はあからさまに表情を歪めた。
「あっつ…バカお前…ちゃんと熱測ったのか!?」
「さっき測ったら…39度2分だって、すごいでしょ」
そう呑気にへら、と笑うので、倉田は返す言葉を見つけられずに一度だけ溜め息を吐く。