二周年企画
□双生フィラメント
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踏みならされた雪道を早足で行く。辺りを覆う雪は冬日和の陽光を反射して白く眩しかった。けれども、キンと張った空気は肌に突き立つように痛い。
ある家の前に辿り着くと、夢子はガラガラと引き戸を開けた。
田舎のこのあたりは日中は玄関でも鍵はかかっていない。吹き込む風が冷たいので、上がり框をまたぎ後ろ手に戸を閉める。
「こんにちはー、おばちゃーん?」
夢子が奥へ呼び掛けると、軽快な足音と共にすぐに部屋の中から女性が出迎えた。
「はーい!あら夢子ちゃん!」
「この間話してた干し芋持ってきたよー」
「あらーありがとう!楽しみにしてたのよ!あ、そうだ今日ね、草太が帰ってくるの。もう少ししたら着くと思うんだけど上がっていく?」
野上の母は包みを受け取りながら、朗らかに笑って家に入るよう勧めた。
「今日?」
「聞いてなかった?」
「んーと、年末ってだけしか…」
「もうやあねぇ、あの子適当なんだから!ほらあがってあがって」
夢子の返事も待たずに、温かいものを入れるからと野上の母は先に部屋の奥に行ってしまった。
夢子と野上は幼なじみだ。たまに野上が帰省した時には、こうして家で会うというのがいつもだった。
「草太の部屋で待っててくれる?」
「はぁーい」
台所からの声に気安く返事をして玄関にあがる。部屋に入るなり、夢子は迷わずこたつに潜り込んだ。
この部屋に入るのも久しぶりだ。普段使われていないものの、野上の母がたまに掃除をしているらしく室内は清潔に整えられている。
それからすぐに、甘い匂いのするカップが運ばれてきた。寒かったでしょう、と目の前に置かれたカップの中では、葛湯が甘いにおいの湯気をたてている。
「草ちゃんはいつごろ帰ってくるの?」
「いま葉介が迎えに行ってるのよ。そろそろ戻ってもいいんだけど」
葉介とは草太の兄であり、同じく夢子の幼なじみである。夢子にとっては幼なじみというより兄のようなものだった。
「葉ちゃんが?おじさんは?」
「それが葉介がね、こっちに帰って来てるときしか運転できないから自分がやるって言い出して。雪道で事故でもしてなきゃいいんだけど」
言って、気遣わしげに壁の時計を見上げた。それから「今夜はご馳走にするから夢子ちゃんも呼ばれてね」と、張り切った様子で再び台所へと向かう。
夢子はそれを見送ってから、葛湯をひと口すすった。