Thema-Event
□ハボロイ記念日!
1ページ/12ページ
「…好きです」
囁いて真摯に見上げてくる部下の勢いに気圧されて、ハボックは半歩ほど後ずさった。
「好きです」
彼女――アーシャはもう一度、今度ははっきりとそう口にした。
どう対処したらよいかわからなくてまごついているハボックの胸に、アーシャは大胆にも飛び込んでくる。
あわてて引き離そうとすると、柔らかなゆるい巻き毛がいやいや、と揺れた。アルコールのせいかバラ色に上気した熱い頬が腕に押し当てられる。
「ハボック少尉…」
そっと瞳が閉じる。キスを求められている、ともちろんわかる。
「いやいやいや! ダメだって、ほら、みんないるし…じゃなくて! 冗談でこんなことしちゃダメだ。な?」
極力甘い雰囲気を出さないように神経をとがらせながら、華奢な肩を押して必死の説得を試みるハボックだが、はちみつ色の髪にふわりと手の甲をくすぐられて、思わず小さく震えた。
「冗談なんかじゃ、ありません…」
そう呟いて見上げてきたアーシャの大きな瞳が潤んでいるのは、酔っているせいだと思いたい。
「ハボック少尉ー! ここで拒んじゃ男がすたるってもんですよー」
「やっちゃえやっちゃえー!」
すっかりできあがった部下たちが気安くはやしたてる。こっちは酔いなんてどこかに飛んでしまったというのに。
つきあっている相手がいるのだと言えれば話は早いのに、そうできない事情は嬉しくもあるがこういう時には非常に困る。
なおも寄り添って離れようとしないアーシャの肩を押し退けることも抱くこともできず、ハボックはため息をついて天井を仰いだ。