Long Story
□【密約】(3)
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「…そうだな。私もちゃんと自分の気持ちを言葉にして伝えれば良かった。そうすればおまえを不安がらせたりすることも、こんな誤解を招くこともなかったんだろう。詫びなければならないのは、どうやら私のほうだったらしいな。すまなかった、ハボック」
そう言ってふっと腕の中で力を抜いた中佐を俺はまじまじと見た。
なんつうか、恐れ多いっていうか、もったいない、っていうか。嬉しすぎて夢じゃないか、って思えて。
すごい。調子狂う。こんな素直で、しおらしい態度の中佐なんて初めて見るし、なんか俺、すごいこと言ってもらってないか?
くるりと向き合う体勢になった中佐が俺の胸に額を当てた。少しの沈黙のあと、上向いた双眸は濡れていて。
「ヒューズの結婚式、な。実は結構平気だったんだ」
「……」
「ちゃんとこころから祝福出来たと思う。それはきっと…おまえが待っていてくれたからで。そばにいてくれたからで。改めて、私は本当におまえのことが好きなんだと自覚させられたよ。
それなのにあの後、突然おまえに避けられて…」
「つらかったぞ」と言った中佐は、目じりに盛り上がった涙があふれるのを必死にこらえてて。
ダメだ。くらくらする。このひとがこんなふうに俺とのこと考えてくれてるなんて全然知らなかった。思いもしなかった。こころを疑って、確認もしないで変な態度とって。俺、ほんとサイテーだった。
うまく言葉をつなげないから、激情のままに中佐の身体を抱きしめて、かすめるようなキスをした。まるで、初めてのキスのように少し触れただけで…し、心臓が…心臓がドキドキして口から飛び出そうで。
「俺、ヒューズ少佐に嫉妬してましたっ。まだ中佐は少佐のことが好きなんだと思って、勝手にふてくされてた。こんなふうにあんたの気持ちを疑うほうが、ずっとひどい行為なのに。
これからは、遠慮とかしないで思ったことみんな訊いたり話したりしていいですか? っていうかそうさせてください。だから中佐も…なんでも俺に言って欲しいです。そしたら俺たち、もっとちゃんと恋人らしくなりますよね?
俺、きっと全然あんたにつりあうような男になれてないと思うし、そうなるのにどんだけ時間かかるかもわからない。でも絶対になるべく早くイイ男になるから。だから…」
あぁぁ、何言ってるのかさっぱりわかんない。鼻の奥がつんとして、また泣きそうになって、俺はそこで言葉を止めた。真剣な表情で俺の告白を訊いていた中佐が、子どもをあやすような優しい手で俺の頬を撫でる。
「…愛してるよ、ハボック」
「っ! …お、俺もです。愛してます、中佐」