Long Story
□Memory Of My First Alchemy (side HavoRoy)
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珍しい錬金術書を手に入れた。エドワードが旅先の古書店で見つけたからと司令部に届けてくれたものだ。私が読みたいと言ったことがあるのを覚えていたらしい。生意気なだけのあの少年にもなかなか可愛らしいところがある、と感心しながら仕事の手を休めページを繰っていると、大柄な男が手元に影を落とした。
希少な書物を狙う悪漢ならば焔の餌食にして片付けることもできたのだが、残念ながらこの男は私の所有物であったので、心の広い私は軽く舌打ちするにとどめた。
「邪魔だ、ハボック」
本から顔も上げずに言うと、煙草の匂いとともに最も気に食わない台詞で返される。
「仕事終わったんスか? 今日までの書類あったと思うんですけど」
ここの連中はなぜ書類仕事といえば必ず私がサボるものと決めてかかっているのだろうか。じろりとハボックを睨み上げ、黙って決裁済みの棚を指さす。紙束を取り上げてパラパラと確認したハボックが、大げさに驚きの表情を作った。
「すごいじゃないっスか、大佐ー」
子どものように褒められて、なんだかこれはこれで気に食わない話だ。
ハボックは嬉しそうにいそいそと執務机のこちら側に回りこんできて、あらためて私の手元を覗き込んだ。今日のぶんの仕事が終わったからといって、遊んでやるとはひとことも言っていないのだが。
「なに読んでるんです?」
この男が私の読んでいるものに興味を示すなど珍しい。
「鋼のが届けてくれた錬金術書だ」
不思議に思いながらもページを示してやると、ハボックは軽く首をかしげてさらに驚くことを言い出した。
「教えてくださいよ」
「は?」
「錬金術。簡単なの」
咥えタバコをぴょこぴょこと揺らしながらにんまりしたハボックに、嘲笑を返す。
「おまえが錬金術…は!」
ひっでーなぁ、と頭を掻くハボックだが、その碧い目からは好奇心の煌めきが消えていない。少年のような純粋な顔で私をみるものだからつい可愛くなってしまう。
「割れたカップを直せたり、タバコが吸える程度の火が作れたらいいな、って思うんです」
「おまえは錬金術を便利な道具だとでも…」
思っているんだろうな。間違いなく。
こいつの単細胞な脳みそに錬金術の仕組みなど噛んで含んでついでにごっくんさせてやっても理解出来ないだろうことは知っているがとりあえず講義などしてみようか。有り余る知識を披露するのは嫌いじゃない。もう少し出来のよい生徒だと尚良いが。