Long Story
□砂の記憶
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アメストリスの東部イシュヴァール。
とうに陽は落ちたというのに、あちこちで上がった炎のために街はまだ白々と明るい。
耳をすまさずとも、否、耳をふさいでいても聞こえる銃声、爆発音。そして悲鳴。
やまない喧騒がまた、そこにいるものの時間の感覚を狂わせる。
長く続く内乱の末、街はひどく荒廃していた。
砂漠地帯にあるとはいえ、もとは豊かな国であったはずのイシュヴァール。
その面影などもう、どこにもない。
『なんのための戦いだ?』
と問えば、戦うための心の拠りどころを失う。だから誰もがその言葉を飲み込んで、黙々と“敵”を殺し続ける。
ロイ・マスタングはひとつため息をつき、窓にかかる粗末なカーテンを乱暴に閉めた。
――クソっ。
胸がむかつく。
室内にいても漂ってくる、むせかえるような血のにおいと肉の焼けるにおいのせいだ。
吐き気をこらえるように下げた視線の先にはギプスで固められた左足があった。