短い夢

□愛してる、に疲れたの
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「愛してる」

彼から紡がれる言葉。私にとって、彼の愛してる程信じられないものはない。情事中だって、そう。何度も名前を呼んでは愛してる、と囁くのだ。他の女にも言っている、言葉を。

あぁ、なんて安い言葉なのだろうか。ため息が溢れそうになった。

「私も、愛してるわ」

嘘つき。私も彼も。そんなこと1mmたりとも思ってもいないくせに。…いや、私は想っていたっけ、最初の頃は。そんな感情もいつしか冷めてしまったけれど。

彼がそっと私を押し倒した。その優しさにいつも愛されているような錯覚がする。吐きそうだ。

ちら、と彼の首元に目をやると、赤い印がついていた。今日も、か。

「ねぇ、」

ゆっくりと、囁く。…今から終わりの始まりなのに、何だか甘ったるい雰囲気に包まれていて少し呆れた。

「なに、」

「止めよう、こんなの」

ピタリと彼は私の服を脱がす手を止めた。彼は今、何を思っているのだろう。

「何でだい?」

「何か、呆れちゃったのよね。今更なんだけど」

本当に今更な話だ。私だって続くと思っていたのだ。同棲みたいな生活。勿論彼が全ての面倒をみてくれていた。

朝、ご飯作って貴方を起こして見送って、昼は私も仕事があったり、ない日は友達と喋ったり遊んだり。夜はご飯を作って仕事から帰って来た貴方を迎えて、キスしてセックスして。…それの繰り返し。満たされていた。幸せだった。けど、貴方は違ったみたい。

その内、帰ってくるのが遅くなって、知らない女の香水の匂いがした。気付かないふりをして笑顔でいたけど、晩ごはんを棄てる度に虚しい気持ちになった。悲しかった、寂しかった。けどそれも最初だけ。何ヵ月も過ぎる中で、そんなの忘れてた。

あくる日の夜、情事に及ぼうとしていた私が偶然発見したのは。背中の爪の跡。決定的だった。私以外が彼に跡を残している。もう、何だか笑ってしまった。浮気、ね。それ以来、私も彼にご飯作るのは止めたのだった。

「浮気…してるんでしょ?」

彼は目を見開いて、何故?という顔をしていた。なんて滑稽なんだろう。馬鹿みたい。そんな彼に私はくすりと笑みを浮かべて指差した。

「首元。…跡、ついてる。随分嫉妬深い子ね?」

するとばっと首に手をやった。…あぁ、終わりだなぁ。何だか気楽に楽観視をしている自分が何処かにいた。

「さて、今まで面倒みてくれていてありがとう。荷物は前から運んであったし、他はいらないから置いて行くわ。…邪魔だったら捨てて頂戴?」

「ねぇ、…ちょっと、釵廩」

彼の呼び掛けを無視して乱れた服装を直し、立ち上がる。すっきりした気分だ。…気分上々、ってね。

「あ、これ、返す。」

「!」

チャリと綺麗に輝いているネックレスを外す。彼が一番最初にプレゼントしてくれたものだった。歩きながら机に置いた。

玄関につながる廊下のドアのドアノブを掴んだ。そして、振り返る。彼は、硬直して動けないようだった。

「さようなら。愛してたわ、恭弥。…最初の頃、貴方の"愛してる"が嘘に聞こえて怖かったのよ。柄じゃないけれど。じゃあね」

振り返らずに走った。玄関から出るときに、釵廩!と声が聞こえた気がしたけれども。過去は振り返らない。私は昔、貴方に言ったはず。まぁもう会うことも無いのでしょう。

だからさよなら、恭弥。
私に軽い愛してるは言えないの。
だって、愛してたから。

でも、もうそれに疲れたな。


愛してる、に疲れたの









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久しぶりに雲雀さんを書いた気がする。

名前あまり出てこないですー。すみません(´・ω・)


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