繋がるブック1

□肩じゃないし胸だし
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『わたしを、わたしとしてだけ、見てくれる』


         

「…くるみ」


涙でボロボロの顔で黒沼は教室へ帰ってきた
         
でもその顔は笑顔で
         

黒沼の笑顔と同時に くるみの泣く姿が頭を掠めた



「名無しどっか行くの?」
 
「…矢野さ、今日先帰るって龍に言っておいて」


  
「…気が向いたら」


少し曖昧な返答に困ったもののそんなこと気にしてる暇はなくて
柄にもなく廊下を走り出してた


  



「くるみ…」


学校から少し離れた場所、もとい、俺達の帰り道である道の影に背を向けて立つくるみがいた


       
「名無し、なによ…笑いに来たわけ…」
          

「ちがうよ、」



      



「…振られたよ」




         
そんなの、見ればわかる
俺の前ぐらいさ、素直になってほしいんだけどな。そう呟くものの、尚更くるみは顔を俯かせてしまった





「くるみ、おいで」

「行かないっ」


「素直じゃないよなぁ…」


頑なに動かないくるみの腕を引き抱き寄せる

 
   
「っ…肩かさないんじゃ、なかったの…」


「肩じゃないし胸だし」

        
意外にも大人しく腕の中に収まってくれたくるみの頭をポンポンと叩くと
何かが切れたようにくるみは声を押し殺して泣き出した

         

「好きだったの」

「うん」


「風早が大好きだったのっ…っ」

「うん」


「でもっ、風早が私の事好きじゃないことぐらい、わかってたけど、でも好きになって、ほしくてっ…」

「うん」


「…ひっく、…駄目だったぁ…っ!」


         

いつから見ていなかっただろうくるみの涙を拭いとると
人目も気にせずくるみは名無し、名無し、とさらに涙を流した






涙は未だ枯れず、


(翔太ってば罪な男…)(ほんとだ、よぉっ…)(いつかアイツ女に刺されるね)
         





         


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