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□波のざわめき
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「……」

「そんな微妙な目で見られても」


良い子も悪い子も眠る時間帯。今日はコーヒーを飲んだからなのか寝つきが悪くついにぱっちりと目が覚めてしまった僕は深い意味もなく談話室へ行く。あそこなら暖炉もあって暖かいし。

談話室は暖炉の火の明かりでうっすらとその周りだけを照らす。ぱちぱちと焼ける音と紙が捲れる音だけが響いた。
誰がこんな時間に。監督生として注意しなくては、と暖炉の近くのソファに寄っていくとそこには面識のある顔がこちらを見ていた。

そこで冒頭に至る。




「なんで起きてんの」

「コーヒーを飲んだからかな。やっぱりいつも通りココアを飲むべきだったよ」

「いや知らないし」


一人で座っているのに隅に座るところがなんとも彼女らしい。開いている片側に座ると先ほどより微妙な顔をされた。
一応僕は彼女に好意を寄せているのだけれど。もちろんそれは伝えていない。明確に伝えていないだけで、きっとたぶん彼女はなんとなく気づいていると思う。だって彼女と以外の女の子には最低限しか話さないのだから。


「いつもこの時間に起きてるの?」

「…今日は偶々起きてただけ」

「朝起きてくるの遅かったもんね。それってすごく悪循環じゃない?」

「…うるさい」


怒られてしまったので黙々と本を読み続ける彼女の横顔を見つめる。
アジア人らしい黒い髪の毛も、僕より一周りも二周りも小さい体も、笑うと優しげになる目も、僕には全て魅力的に見える。
でもきっと彼女は脈ナシだ。気づいていながらの脈ナシだと、僕は思っている。


「…あのさ、そんなに見られると読みにくいんだけども」

「ん?あぁ、ごめん」

「いや、いいや。今日はもう寝る」


そう言って女子寮へ向かう彼女を追いかけて僕も立ち上がる。…やっぱり小さいや。
分厚い本を持ちながら歩く彼女の背中を見ながらそんなことを思っているとつるりと滑って傾く目の前の彼女。反射的に手を滑り込ませて床と彼女の間でクッションになる。


「いて、…」

「え、ちょっと…大丈夫!?」

「あはは、大丈夫だよこれくらい」


頭を掻きながら笑ってみせるとほっと安心した表情になる。良かった、怪我がなくて。
そんな気持ちから彼女の頭に自然に、僕的には極自然に頭に手を乗せて撫でた。


「っ……!?!?」


すると急激に赤くなる顔。……え、なにこれ。
初めての彼女の仕草に呆気に取られているとズサズサと後ろに後ずさりをしながら女子寮への階段を上っていった。


「名無しッ……」


一瞬びくり、と止まって振り向いた彼女の表情は眉を八の字に下げ、顔を真っ赤に染めていた。え、え……え!?


「お、おやすみッッ………」


彼女らしからぬ台詞に思わず何も返せなかった。
え、え、………もしかしてこれって。











波のざわめき
(もしかしなくても、脈アリだったんじゃないのか……!?)













お題配布元:Alstroemeria


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