魔法

□It is a man!
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俺はいわゆるジェットコースターと言われるものが大好きだ。もちろん高所恐怖症でもない。
でも人には苦手なものはいくつかあるわけで。



「俺ほんとだめなんだって」

「うるさい文句言わないでよ」

「だって…俺ら下から眺めてればいいじゃん」

「そんなん上で何があるかわかんないじゃないの」

「うぐっ……」


そんなこんなでうまく丸め込まれて矢野とししぶしぶ観覧車に乗り込む。なにが嫌って初めて乗ったときのトラウマが今も脳裏に焼きついているからである。


「あの時は風が強い日だったなあ…」

「ほら現実逃避してないで!隣のヤツらが!なんかほら!」

「言葉になっていませんよ矢野さん」


ほらほら!と指で示す方向には俺らの次に入った翔太と黒沼の姿。まあ言わずもがなだよなあ。
二人でもじもじしあう姿がなんとも歯がゆい。それを表すかのように矢野はダンダンと床で地団駄を踏む。いや、ほんとそれはやばいッス。マジでガチで。


「待て待て待て落ち着け。落ち着いてください!」

「どこが落ち着いてられんのよっ」

「ほっとけば二人っきりに耐え切れなくなった翔太がきっとどうにかするから!!」

「どうにかってなんだー!!」


うがー!とまるでどこかの吉田のように憤慨する。
俺はというとどうにもならない矢野を押さえ込む最終手段を繰り出そうと思う。
窓に張り付いて離れない矢野の腕を引っ張って向かい合うようについている椅子ではなく床に座る。


「な、に。びっくりした……」

「俺の心臓が悪い意味で止まりそうなんで暴れないの」

「……ごめん。てかなんで床…」

「だって同じほうの椅子に二人で座ったら傾くだろ」

「さわこたち、…」

「…俺は矢野といちゃいちゃしたいなーなんて」

「いっつもいちゃいちゃしてるでしょ」


外だとほら、また違った雰囲気じゃん。
そう言って今度は俺が矢野をうまく丸め込む。
すると力が抜けたように大人しくなって俺の服の袖を握る。あ、ちょっとそれかわいい。きゅんってした。















「いやーどうだったかな翔太くん」

「……いや、なんも…」

「……いやいやいや」

「な、なんだよ」

「なんかあっただろ確実に。ないとか言ったら寿命縮めてまでかわいい彼女のお願いだから乗った俺の苦労をどうしてくれんだおめー」

「長いわ!それに、なんもなかったって!」


ぺしり、といつも俺が矢野にやられているように翔太の頭を叩く。たいした力も入れてないのに恨めしそうに睨まれた。


「ほらほら、言っちまいな」

「ぐぅ…、黒沼と、」


なんだこいつやっぱりなんか黒沼とあったんじゃんか。2人だけの秘密にしたいってか!そんなん今回ばかりはさせねえぞ!


「手…繋いだ」


ぼと、っと何かが落ちる音がした。それは俺が持っていたお土産が入っている紙袋で。随分と焦らしてくれたわりには薄かった内容に思わず手が滑った。
いや、こいつらからしたらだいぶ必死だったらしく目の前の翔太は顔が次第に赤くなっていく。


「思い出して照れてんのかなんか変態くせー」

「う、ううるさい!!」

「てっきりそんなに焦らすからキスのひとつやふたつくらいしたのかと…」

「きす…しねーよ!」

「いやしろよ。男だろ!」


売り言葉に買い言葉。次第に言い合いは激しくなって。じゃあ名無しはしたのかよ!?したよ観覧車の中でなそりゃあもう!ぐ、恥ずかしいだろ!そんな堂々と言うなよ!自分で聞いてきて何言ってんだ!うっせー!俺は名無しと違ってなあ!


それからしばらくして矢野から各々鉄拳を頂くのは別のお話。





だって僕らは








It is a man!
(男の子なんだもの!)











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