魔法

□回る世界の片隅に
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寂しかった。いつも私を包み込んでくれた暖かさはどんなものだっただろう。もう何ヶ月も前のことを思い出してはまたむなしくなる。こみ上げる何かに気づかないフリをして。




私は俗に言う嫉妬と言うものをしている。
誰にしているかって?それはもちろん二年かけてやっと交際を了承してくれたリーマス・ルーピンにだ。


「ぎゃあ!」

「おっと、」


対して驚いたようすもなくリーマスはトンクスの傾いた体を支える。
別にたまたまこんなことが起きたくらいじゃあ私は怒らない。そんなに心が狭くなった覚えはない。ただ問題なのは似たようなことがもうなんども起こっているからだ。
それに加えてリーマスとまともに2人でいることがない。トンクスと話終えたかと思えばシリウスがやってきたり、かと思えば他の騎士団のメンバーが訪れたり。私はもう限界になっていた。

嬉しそうなトンクスの表情だったり別に対して気にしないで話を始めるリーマスに自分だけぽっかり取り残されたようななんとも虚しい気分になる。


「り、リーマス、」

「ん?どうかした?」


くい、とリーマスのよれよれのワイシャツの裾を引っ張る。振り向いたのはいつもの、私が大好きな笑顔で。
その笑顔を見たら自分の眉が下がっていくのがわかる。ずるいよ。


「っ、…わたし、部屋戻ってるね、」

「え、名無し、」

「ばいばいトンクス…リーマス」


明るく手を降ってくれるトンクスにチクリと胸が痛む。ほら、私より素直でかわいいじゃないか。そうやって私はいつも自分で自分の首をしめる。
手を伸ばすようにして名前を呼んでくれたリーマスの声さえも聞かないフリをして私は『部屋』へと向かった。





「………ぅ、ばか」


ばか、リーマスのばか、私のばか。何より肝心なことになるとなにも言えなくなる自分が嫌だった。これがシリウスだったらいくらでも言ってやるのに。
そうしてまた1人悶々と考え始める。


「やだ、もう…」

「っ、何、が…?」


キィ、とゆっくりとドアがあけられた音がした。
一瞬、ほんの一瞬だけギクリ、としたけれどでも私は下を俯いていて前を見ない。見なくてもわかるいつもリーマスの優しい声。だから絶対に見ない。恐る恐る近づいてくる足音と私が鼻をすする音だけが部屋の中に響く。


「必要の部屋にいるなんてズルいなあ」

「でもちゃんと見つけたじゃない」

「もちろん」


名無し、泣きそうな顔してたからね、そういうと同時に隣に気配を感じて、思わず顔を上げそうになる。そっと頭を撫でる彼のてのひらに涙がぶわっと零れてきた。


「ごめんね。リーマス」

「んー?なにがだい?」

「トンクスにね、妬いた」

「うん、……そんなつもりはなかった」

「知ってる、リーマスは優しいし、トンクスがわざとやってるわけではないのも。でもね、」

「好きだよ、名無し」


言葉を遮るようにして囁かれた愛の言葉。なんだかくすぐったくて横に座るリーマスの傷だらけの手に自分の手を重ねた。重ねた手が彼によって絡められて、それを合図にするかのように私たちはお互いに体を向き合わせた。


「……でもね、リーマス。たまにでいいから、」

「うん」

「…こうして、二人でいる時間が…欲しいの」

「うん」


我ながら情けない声だったと思う。でもそんな私を笑うこともしないでリーマスはそっと抱きしめてくれた。ずっと求めていた温かさで、


「…僕は、こんな人間か狼かもわからない化け物だけれど、」

「違うよリーマス」

「ううん、名無し聞いて」

「…うん」


僕は、こんなヤツだけど、それでも君を僕が、僕が守ってあげたいと思ったんだ。他の誰でもなくて、この僕が。頼りなくて、弱いかもしれないけど、僕とこれからも一緒にいてほしい。
ひとつひとつ大事そうに紡ぐ言葉が私の中に落ちていく。あぁ、嫉妬なんかした自分が馬鹿みたいだ。
私はこんなにも愛されていたというのに。


「ごめんね、ありがとう、大好きリーマス」

「ごめんねはいらないって」

「ふふ、………大好きリーマス」

「…うん」









回る世界の片隅に






寂しかった。それは少し前の私のことで。
今はもうまるでそんなことがなかったかのように他の人と何も変わらない私の大好きな暖かい体温に包まれて二人で肌を寄せた。










お題配布先:恋するブルーバード






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