I.cブック

□微笑うカナリア
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飛行機の中でお互い照れくさそうに話す矢野とその彼氏を見た。目をそらしても瞼の裏に焼き付いたそれはなかなか消えることはなかった

「…」

「…見すぎ」

「うわ、」

「気になるって言ってるようなものだよそれ」

「む……うん」


はあ、と盛大にため息を2人一緒に吐き出した。気になっていたのは確かに事実で、何も言い返せない
それがなんだか少しだけ悔しくて目の前にあったくるみの茶色の髪の毛を一束掴んだ


「わ、…名無し、なにしてるの?」

「…あ、痛かった?」

「そんなことないけど」


たいした抵抗も見せずにくるみはその胡桃色の柔らかい髪の毛を手櫛ですく。俺はというとなんだか突き刺さる席側からの視線に背を向けるようにしてくるみの髪を三束、順番に重ねていった
…なんかこれ誤解されかねないよな。周りから


「視線がひしひし感じますね。それも最近名無しを狙ってる女子達からのばっかり」

「奇遇ですね俺も野郎共からの視線がね、くるみさん」


あはは、うふふ、お世辞にも上手いとは言えない棒読みな笑い声を聞いて互いに二度目のため息をついた。あらやだ、俺達ってさすが息ピッタリ


「あ、片方編むなら反対側もみつあみしてね」

「えー……あー…はい」


確かに片方だけみつあみなんて端から見たらシュールすぎる。有無を言わさないようなくるみの目力になすすべもなく了解の意を唱えた。俺に可愛いぶりっ子作戦は聞かないと思っての作戦なのか
女は怖いね!男は辛いよ!

「ねー、」

「んー?」

自由行動のとき、暇?そう尋ねてきたくるみは悪びれた様子もなく、だからといって茶化すような素振りもなく、ただ純粋に聞いてきた気がする
暇じゃないと言えば嘘になる。特にこれといった用もないし適当にケント達と回ろうと考えていた


「特に用はないけど」

「じゃあ一緒に行かない?」

「…どーいう風のふきまわし?」

「そーやってすぐ人を疑う」


む、と拗ねた横顔が見えた。ただ、元気ないから名無しの周りで唯一の癒し系な私が癒してあげようかなあって。悪戯をしたときのようにちょっと楽しそうなくるみの頭をぽんぽんと叩いた。くるみなりの気の使い方が今は少し心地がいい
ありがとう。小さくお礼をいって最後の仕上げと言わんばかりにゴムで2本目のみつあみを結びあげた


「おさげかんせーい」

「ふふ、かわいい?」

「うん。くるみおさげ似合うね」


えへへー、嬉しそうにこちらを向いて笑うくるみにつられて一緒に微笑む。くるみを呼ぶ声が奥のほうから聞こえてきてそれに気付いたくるみは名残惜しそうに俺を見る


「行ってきていーよ」

「…じゃああとでメールするね」


ちょんと友達の方へ促すように押したくるみの体はひょこひょことおさげを揺らしながら扉の奥へと消えていった











「ね、ね、」

「…あーねむいなー」

「ちょっと名無しくーん!」

「くるみは幼なじみだよ」

「…へ?…そーなんだ」


こっちを見るタレ目はきょとんと気の抜けた色をしていた。はは、すげーアホ面

「うーん意外だったなーくるみも名無しくんもなにも言ってくれないんだもん」

「いや聞かれてないし?」

べたべたと寄ってくるケントを引き剥がしてそういうと冷たい!と泣き真似をされた。冷たいもなにも…と思わず呆れる



くるみからおさげの髪を強調するかのように撮られた写真とメールが来たのはそれから少し経ったころだった








微笑うカナリア







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