魔法

□08
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コツンと頭を軽く何かで叩かれた気がした。
なんだ、と後ろを振り向く前に聞こえる聞きなれた声。
後ろを振り向くと予想通りによく見る顔があった。ただ、もう一人がいない。


「あれ?リーマスは?」

「開口一番リーマスかよ…」

「え?だって次の授業は三人一緒だよね確か」

「まぁ、そうだけどさ」


シリウスは困ったような、何か考えているような、そんな顔で名無しから目線を逸らした。






08





「なに?なんか言えないこと?」

「あー…まぁ…な」

「いや別に無理やり聞こうとか思ってないからね?」

「あ?そーなんか」


私を何だと思ってるんだこいつは。
私の内心と裏腹に、シリウスはケロリとした顔で頭を掻く。


「まぁあれだ。調子悪くてさ、リーマス」

「へぇ……大丈夫なの?お見舞い行きたいなぁ」

「おい、お前それはやめといてやれ」

「?いや冗談だよ?お大事に、って言っておいてね」

「……おー。ほら、入れよ」


ギィ……と重たい扉をシリウスが難なく開ける。
中は少し湿っぽくて暗い。私はこの部屋が苦手だ。


「お前って占い学取ってた?」

「占い学?取ってないよ」

「だよなー、似合わねー」

「し、失礼な!」


コソコソとどうでもいいような会話をしながら必死に私はノートをとる。一方横のシリウスは顎をついて何かとちょっかいを出してくる。
……これだから主席はよぉ!


「シリウス、あんまり喋りかけられると私が先生に目をつけられる」

「だって久々にお前と二人なんだもん」

「もん、とか可愛くないからね」

「そーいうわけじゃねえよ。ただ名無ししか喋るヤツいねーし。そこ間違ってんぞ」

「うえ?あ、本当だ………アリガトー」


もっと感謝の気持ちを表せ、とシリウスが頭を小突く。


「なあ、」

「んー?」


果たしてこいつは授業に出席している意味はあるのか。なんでこんなんで頭がいいんだ!
殴り書きとも言える勢いで名無しは要点を書き出していった。あとでもう一回まとめなきゃ…。


「お前さ、ムーニーのこと好きなの?」

「…いやいやいや」

「あ?違うのか」

「い、いや!好きだけど!!憧れみたいな…さ。恋愛感情とかの好きとかはないよ」

「……ふーん」


いかにも面白くないとでもいうオーラを出しながらシリウスは羽ペンでなにやら奇妙な絵を描いていく。それを見ないふりをして前を向く。けれどなんだか先生の長い話に耳を傾ける気にもならなくて。


「…つまんなそうな顔」

「…え、」

「お前そんな顔、すんだな」


そんな顔ってどんな顔だ。名無しがそう聞き返そうとするとタイミングよく開いた口と同時に授業の終わりを告げる音がなった。なんだろう、この妙などきどきした感じ。好きな人が女の子と話しているのを見たときのように痛い感じでもなければ浮かれるようなふわふわしたものでもない。
何か、かゆいようなそんな気持ち。


「名無し?」

「うあ、っえ?なに?」


ぐい、と整った顔が覗き込んだ。名無しは思わず後ずさりして長椅子から危うく落ちそうになった。


「ほら、……行くぞ」


次の授業は多分ムーニー来るから。やっぱりシリウスは何か勘違いをしている。
名無しが誤解を解こうと口を開くもシリウスは何とも言えない表情をして先に階段を登っていってしまった。




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