小説

□クラティナ
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風も空もあるのに、無機質な空間で俺とティナは、彼女とはぐれてしまったもう一人を探していた。

彼女は仲間の気配を感じとれなくなったと言っていたが、ひとつだけチョロチョロと動いている気配があるとも言っていた。

それが、あいつとも言い切れないが、彼女はその気配を追っているようだった。

彼女が突然立ち止まった。

「どうした」
「せっかく近づいていたのだけど・・・また遠くなったみたい」
「そうか」

「少し休もう」
休める場所などなかったが,適当な場所に俺が座ると,彼女も続いた。

「先に休め」
彼女がじっと俺をみる。「どうした?」
「ううん。ごめんなさい」

彼女は寝袋を取り出し、フラフラしながら、体を入れる。

「詫びる必要はない。あんたはあいつとはぐれ、ひとりで戦い、トランスし、俺と戦った。そのうえ、あいつを探して。休息とるのも遅いくらいだ。俺の方こそ詫びるべきだな。もっと早く休ませるべきだった」

「そんなことない」
彼女の細い指が遠慮がちに俺に添えられる。俺の口を塞ぐには十分で、柄にもなく戸惑ってしまう。

「あなたはいつも、言ってほしいことを言ってくれるの。せっかく手伝ってくれてるのに、ごめんなさい。もっと頑張りたいのに、今はあなたに甘えるしかないみたい」

甘える?
違う。
彼女にすがって甘えているのは俺の方だ。
彼女に言えるはずもないが、心地いい彼女の言葉に溺れたくなる。
「いいんだ。休んでくれ」
「ありがとう」

瞳を閉じた彼女から、間もなくして規則正しい呼吸が聞こえてきた。

彼女に気持ちを伝えられるたびに答えが見つかりそうな気がする。可憐な寝顔を見ているだけで、迷いから抜け出せそうな気がするのだから、彼女の存在すべてが俺に影響を与えているのだと思う。

ふいにフリオニールの野バラが見たくなり、映し出す。
この美しい花を愛でているフリオニール。野バラが一面に咲く世界を見たいと言った奴。

悪い奴ではないと思う。
想像はできないが、この花いっぱいの世界は、おそらく美しいだろうとも思う。

しかし、美しい
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