Novel

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「・・・・」

「あっ、わり・・・、っ?」

俺が鍵を回したのと同時にフリッピー君の扉を蹴破ろうとしたらしい強力なキックにより空いた扉はこちら側へ勢いよくバンッと押し返されてゴツンという派手な音、俺は強かに額を打ち付けられた。
まったく乱暴な事をするんだから・・・と痛みで少しだけうるっとした目でそのままフリッピーを見やると目の前の俺を凝視している。ふん、変な顔。

「なんだおま・・・それ・・」

「知らないさ、ランピーに変な薬を貰って寝て起きたらこんな身体になってたんだよ」

「・・・・・」

「なんだい」

「服着ろっつーの・・」

自分の羽織っている迷彩柄の軍服を肩から俺に被せる。紺色のTシャツの袖から伸びた腕で襟の部分を首元でぎゅっと掴んだ。
意味がわからなかったがこいつは今自分の目の前にいる俺の格好に動揺していると気付くと意外にも可愛いじゃないかと笑みがこぼれた。
フリッピーの手を外して軍服をきちんと着るが勿論でかい。
袖は指先が少し出るくらいまであり、裾は尻の下ほどだ。




とりあえずコーヒーでも淹れてやろうとキッチンに立つと普段届くはずの棚にあるコーヒー豆が届かない。
つま先立ちでバランスをとりながら腕をめいいっぱい伸ばしても指がギリギリ触れる程度。しかもうっかりポンっと軽く奥へ押してしまってますますとれなくなってしまった。
少々情けないがフリッピーに取ってもらおう。ソファで怠惰に寝っ転がってるであろう彼を呼ぼうとして振り向こうとしたら後ろから肩を掴まれて俺の頭上をひょいと腕が飛び越えてそれを取ってみせた。
その瞬間フリッピーの胸板にすっぽりとおさまってしまったのだがあまり悪い気はしない。それどころかちょっとどきどきしてしまった。
「ん。」とぶっきらぼうに背後からコーヒー豆を渡してくる。ゼロ距離で棚とフリッピーに挟まれて身動きがとれないのだが「ありがとう」は相手の目を見ていうものだと思う。
ぐいぐいっと押しのけるように身体を180度回転させてフリッピーに向き合って豆を受け取る。

「ありがとう」

それによって俺は棚を背後、フリッピーを目の前にして完全に覆い被せられている状況になった。
”据え膳食わぬは男の恥”なフリッピーは日頃(俺が男であった時の場合)少しでも隙あらば欲情してどこでもナニするようなド獣野郎だ。
まずいと思って思わず硬直してしまったが何を思ったのか顔を真っ赤にして背を向けた。

「・・こっ、こっち見んじゃねえよ!!」

ドスドスと音をたてて歩み寄りバフンとソファに沈み倒れる。
・・・・・おい、あの赤い顔を見たか。扉の向こうではあれだけギャンギャン騒いでいたのにリビングに入れてからはずっとそっけなく黙りこくっていたわけがわかった。
最初はただ動揺してただけかと思ったけどあいつはめっぽう女性に弱いんだ。その割に凄い殺してたりするけど。
その女性というのは今の俺も含まれるわけで・・・少しこの状況が楽しく思えてきた。

せっかくとってくれたのだから美味しいコーヒーをいれようとして腕を捲る。
フリッピーは勝手にテレビをつけて適当なチャンネルに合わせて視聴していた。
甘党なこいつのためにわざわざ購入してる角砂糖をいくつか皿に乗せ、コーヒー二つと砂糖の皿をのっけたお盆を持って小さなテーブルに置いた。

「・・おい」

「なんだい?」

「なんで腕捲ってんだよ」

「・・・・は?」

おかしなことを言う。コーヒーを淹れるのに長すぎる袖は単に邪魔だったからだ。
それを聞いたフリッピーはおもむろに折り返している袖を元にもどした

「袖はこのままにしろ、そんでズボンは脱げ」

「え?え?」

「脱げってんだよ」

「は!?」

ずるりとハーフパンツをずりおろされたので慌てて足元に落ちたハーフパンツを拾おうとするとパシンと手を弾かれて阻止。
そのまま何食わぬ顔で前のボタンをとめはじめた。
ポカンとして一部始終を見届けると満足そうな顔をしてコーヒーに角砂糖をポチャポチャと投下した。

「どういう事なの」

「そういうのがお決まりだろ」

「なんだよ・・・それ・・・・・」


また反論するとめんどくさい事になりそうだから足もとに絡まったハーフパンツをぽいっと部屋の隅っこに蹴って俺もコーヒーカップを手に取った。




(ただのムッツリじゃないか・・・)
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