Novel

□s
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色とりどりの花々と、透き通るような青い空と。
傍らで寝ている君。


美大に通っている俺は春期休みの課題の仕上げに入っていた。
絵を描くのが趣味程度に好きなだけだから学校の成績は良くはない、悪くもないけど。
外へ兄貴を無理やり連れ出して付き合わせた。兄貴は心理学科の大学に通っている。俺からしたら何が楽しいんだか、って感じ。
そんな俺達は最初こそ会話を楽しんでいたものの、兄貴は飽きて俺は段々真面目に取り組むようになり今では隣で寝ている。
芝生にねっ転がってお気に入りの帽子を顔に被せ腕を後ろで交差させて寝ている。

気持ちのいい日だ。
明日から学校がまた始まってしまう等考えたくない。言っておくが俺は重度のブラコンだと自負している。
お互い学校のないこの春期休み。俺は死ぬほど幸せだった。
高校までは一緒だったのだ、大学へ進学してから日中顔を合わせないとなると心がざわざわしててしょうがない。
心地いい風が吹いて帽子がフワッと浮き上がり、兄貴の隣へ落下した。
その帽子に手をのばして飛ばないようにツバの部分を荷物で軽く押さえる。
恥ずかしげもなく綺麗な寝顔を晒してる兄貴を見て「こっちを描けばよかったか」と少し思った。
でもそんな事をして大学へ持っていけば兄貴は烈火の如く怒るだろうし、大学の友達も怪訝な顔をするだろう。
風が強くなってきた、まだまだ冬は去ったばかりだ。風邪を引いてはいけない。
サッサとこいつを終わらせてから今日付き合ってくれた兄貴に御馳走を作ってやろう。

一定のリズムで寝息を刻む兄貴の唇にそっとキスをして俺はまた筆をとった。

美しいもの
(兄貴に敵うものなんてないのさ)



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