Novel

□a
1ページ/1ページ



「私とスプレンドント君の違いってなんなんだろうね?」

唐突に言い出したのは目の前にいるクソ馬鹿偽善者ヒーロー気取り。イかれ狂った新聞記者のスプレンディド。
何度もしつこくしつこく問いかけられるのに俺は飽き飽きだ。お前とあいつにそう大した違いなんてあるのだろうか。

「お前の髪の毛は青い、あいつの髪の毛は赤い。それだけで十分じゃねえか」
「彼は私のクローンのようなものなんだよ。作りがすべて一緒な筈なんだ」

自分の手のひらをぎゅっと握りしめてそれを睨む。確かにこいつらは自分ばかりを正当化しようとして衝突する。
どちらだってなんの人助けも役にもたっていないのに幸せな脳みそだ、その点だとやはり一緒なんだと思うが。
いっそ悪者になってしまえばいいのに。あいつとお前が共存できない事なぞ百も承知。誰もが黙認している事実。
両者もヒーローとは言えないがうざったいくらいの正義感に満ち溢れる野郎共なのだから、二人もいらない。
そんな映画にだって世界を救うヒーローは一人しかいない。(最も、こいつらはその一人には到底なれやしない)

「それだから決着がつかない。腕力も体力も能力も知性も、すべて彼と等しいから。周りが見えなくなってしまうのも一緒だ、歯止めがない。」
「だからお前は一体どうしたいんだよ。仲裁なら死んでもしねえぞ」
「そう言っているんじゃない」

一息おいて、スプレンディドは呟いた。

「違いは必要なんだ。私は彼が嫌いなのではないのだから。私がそうなのだから彼だってきっとそうだ」

あきれる。
「それを俺に見つけてほしいのか?」
「ここにいる住人の中で、今生存しているのは君だけじゃないか。」

そう、血の海。俺が荒らした上にスプレンディドとスプレンドントが生み出した惨状。
スプレンドントでさえ意識がぶっとんじまっててまともに会話できるのは俺とこいつ。

「私はもう、やめたいんだ。」

べっとりと返り血のついた両腕を自分の顔に押し付け、声を震わせた。
軟弱だ、こいつはすこぶる弱い。振り切る事が出来ない為に全てを責任転嫁する。
これはこいつが引き起こした結果であるのに、それは他人との違いだと責任を押し付ける。

「お前とあいつの違い、教えてやってもいいぜ。今見つけたんだ。」

ハッと顔をあげて俺を見る。垂れ下がった眉、悲願の顔。
どうしても力で捩じ伏せたくなる真の弱者の顔。

「俺はスプレンドントには何の感情も沸かねえが、お前には特別興奮する」

手を取って顔についた血を舐めると体を跳ねさせて目をかっぴらいた。
いいじゃねえか、お前は誰の得にもならない新聞記者っていう仕事と優越感に浸るだけの英雄業をやってるんだ。
疲れだって出るんだろうな。なら忘れちまえばいいだろう。
俺のことが嫌いで嫌いでしょうがない英雄さんは抵抗する気力がないのがなすがまま。
弱ってるこいつが死ぬほど好きな俺はそれをいい気に押し倒して脱がしにかかる。

スプレンディドの手が俺の懐にのびて、中にある手榴弾に届いた。
何かを呟いたのをとらえる事が出来ないままに弾く音が耳をつき、そのまま意識はなくなった。

今日の破滅
(「誰も 救えない の か」)



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ