Novel

□仮想
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ひどくじれったいのだ、私の脇にぶら下がる無能な両腕。同じ事しか呟くことの
できない口先。
英雄である私でも、彼は救えない。
ああじれったい。


「スプレンディドさんスプレンディドさんどうしたらいいのでしょう胸が熱くて張り裂けそうですこの気持ちのやり場はどこへ」


私を抱き締めて離さない。私より少し背の低い彼が、ぎゅっと助けを乞うようにしがみついてくる。あぁ、そういえばいくらか年下だったか。

「それはきっと気の迷いさフリッピー君。朝起きて素晴らしい朝日を浴びたらきっと前の日の事なんて一切忘れてしまうよ」

だから離したまえ。

いやです、苦しくって仕方がないのです。もう俺にはどうすることもできないのです。


いつもの威勢はどこへいったんだい・・と、あれは彼の裏人格だったか。声色も表情も柔らかい、感情も豊かに表現できる。(ただ今は私の胸板に顔を押し付けていてわからないのだが)
しかしね、気付いてはいけないのだよ、君はまだまだ青年だ。出会いも未来もある。私だって所帯を持つ可能性だってある。
こんな事数ある内の物語のひとつ。今日の出来事。彼がうっかり私を抱き締めて変な事を口走ってしまった。たったそれだけだ。
いけないのだ、私が男である以上、彼が男である以上。

そして私は英雄なのだ、 皆に平等でなければならないのだろう。


「この感情を忘れたくない。それなのに苦しい、苦しいです。焼けてしまう。」

「そうかい、それならいっそ焼けてしまったらいいさ。」


とうとう涙を流す彼に私は頭を撫でてやる事もできない。


火葬の恋
(私も好きさ、ずっと前からね)

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