Novel

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「ラッセルの足と腕はどうして治らないの?」

「これはな、勲章なんだよ。勲章。」

幼い声で尋ねられて誇らしげに返答する。カドルスは俺の脚や手をペチペチ叩く。あんましフックに触んな、怪我すんぞ。ふーんだのへーえだの言いながら興味津津に俺の周りをくるくる回る。
そうじろじろ見られると恥ずかしい。

「なんだ一体」

「って事はさ、ラッセルはここで生まれたんじゃなくって他から来たの?外部の怪我は治らないってランピーが言ってた。」

「まあそういう事になるな。」

俺の過去が知りたいと言ったから教えてやった。ここに来る前海賊船にいた事。帽子もフックも脚もその誇りだ。俺が海賊として生きた証。仲間とともに航海を続けた証拠。
俺はたまたまここに辿り着いたわけじゃあない。その時ここの付近の海は酷く荒れていて、船は転覆。仲間がどうなったのかしらないまま意識を手放した俺は目が覚めたら海岸にいて目の前にランピーがいた。
しかし海岸に流れ着いていたのは俺だけで、他の仲間も船の破片も見つからない。海の藻屑になったのか、助かったのか。俺はあいつらが今もなお海賊船に乗っていると信じているのさ。
そうしてこの海岸に家を持ち、あの船が通るのを今か今かと待っている。

「それでも、彼らは助けに来てくれないんだ?」

「・・・・あ?」

「助けを待っているんでしょう?ラッセルは。いなくなった自分に気づいてここまで来てほしい、助けてほしいんだ。かわいそうだね、きっと彼らは来ないのに」

睨みをきかしてやるとより一層こいつの笑みが深まった。なんだ、なんだこいつは。
真意なんてものはわからない。ただ凄味があって目を離せなくて、なにより嘘と思えない。

「彼らは来れない、ラッセルを助けには来ない。残念だけど本当だよ。泣かないで、ねえ。」

俺の頬に涙が伝った。わかっていたさわかっていた。ここにきて何十年たつと思っているんだ。奴らは俺を助けに来ない、いや忘れているのかもしれない。
カドルスが俺を抱擁する。胸がぎゅっと締めつけられる。俺は海賊であることを忘れたくはないのだ。めいっぱいの力で、俺も抱き返した。

「カドルス」

「大丈夫、大丈夫。僕を死ぬまで抱きしめていていいよ。君はもう海賊なんかじゃない。ただのラッセルなんだ。思いを殺して、またつらくなっ、ぼく、だきし、っげ、る」

ゴキン、と音が鳴って今日のカドルスは死んだ。



逃がさない
(ここから出さないよ)


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