まだ夜明け前の早朝。

夏の空は既に白み始め、薄紅色の雲がたゆたっていた。























「よーし」


彼女は既に目覚めていた。メイドたちを起こさないように早起きして、クローゼットの扉を開く。


ドレスなんて一人で着たことなかったから苦戦したけれど、小一時間ほどで支度は調った。スザクの好きな、薄紅色のドレスに、薔薇の花をあしらったチョーカー。完璧だ。


鏡の前でくるりと回り、ユーフェミアはにっこり微笑んだ。














枢木スザクは気だるげに起き上がると、目覚ましに手を掛けた。


ボーッとしていて頭は冴えないが、公務の時間である。


クローゼットから騎士服を取り出して、袖を通すと、髭を剃った。



最初はタイも結べなかったけれど、今では一人で出来るようになった。自分も大人になったのだ。



「どうしたんだろう、何か…落ち着かない…」


今日の予定表に目を通しながら、スザクは頭を掻いた。


メイドも庭師もいつも通り掃除や洗濯をこなしている。スザクにも、普段通りの朝がやってきただけ。


本棚には軍事関連の大量の書籍。立派な家具。天蓋つきの大きなベッドと、この部屋は一年前と全く変わらない。まるで、この部屋だけ時が止まった様で、スザクはため息をついた。そして、不意に。



「スザク」



穏やかで優しい声。


ゆっくりと振り返った先には、悪戯っぽい表情の彼女が顔を覗かせ、スザクは目を見開いた。



「ふふ……来ちゃいました!」



お姉様に見つかったら怒られちゃうから、早起きしたんですよ!というユーフェミアは、いつもと同じ薄紅色のドレスを纏ってる。


驚きの余り、スザクは言葉もない。


ユーフェミアは無邪気に首を傾げて微笑んでいて………スザクは笑い返そうと唇を開いて、片手で押さえ付けた。


そうして慟哭して涙を零すスザクに、ユーフェミアは目を見張る。


どうしてスザクが泣くのかが分からなくて、どうしたの、と、叫ぼうとした彼女は、声にならない。背筋が凍りついて、チカチカと点滅する視界。




つま先から上が、ぐらりと揺らいだ。





「ユフィ………」





涙まじりのスザクの声に、ユーフェミアはゆっくりと顔を上げる。


ユフィ、君は…と、言いかけて言葉にならない彼に、ユーフェミアは美しい双眸をゆっくりと瞬かせた。




「私………」




お気に入りの薄紅色のドレスに、赤い花がぱっと浮かぶ。


目を見張り、ゆっくりと頬に手を伸ばせば、ぬるっとした感触。


指先にこべりついた真っ赤な血に、ユーフェミアは目を見開いて、ようやく気付いた。そうだ私、私は。



「私、死んでたんだわ…………」



呟いた瞬間、ぐにゃりと視界が歪む。


思い出すのはルルーシュ。部下になるわけじゃないから、と、伸ばされた手が愛しくて、大切にしたいと心底思った。なのに、どうしてルルーシュは私を撃った?(違う、先に撃ったのは、私



頭の中がぐちゃぐちゃで、歪んだ視界の端には、泣きそうな顔のスザク。



彼が着ている純白の騎士服は、ユーフェミアが贈ったものとは違っていて、彼はもう自分のものではないのだとようやく気づいた。けれど、ユーフェミアに裏切られたという感情は一切ない。


ただ、よかった、と、私がいなくなっても誰かをまた愛せて、愛されて、よかった、スザク。そう心底安心して。








ユーフェミアは言葉もなく、駆け出した。



そして躊躇うことなく窓から身を乗り出したユーフェミアに、スザクは手を伸ばす。けれど、間に合わなくて。






薄紅色のドレスが、視界からゆっくりと消えていった。







まだ夜明け前の早朝。

夏の空は既に白み始め、薄紅色の雲がたゆたっている。

いつもと変わらない、彼女のいない朝がゆっくりと始まりを告げ、スザクは泣きじゃくった。












彼女が死んだ、夏の朝
(死んだ後も、僕を心配してくれていたんだね、ユフィ)



END
「ラウンズスザクの目の前に現れたユフィ」というリクエストでした。

分かりにくいと思うので解説すると、自分が死んだことにユフィは気付いていません。無意識にスザクのところに足は向いて、自分が死んだこと、そして彼が一人じゃないと知ると消えました。

いつもと変わらない朝の風景のお話。纏まりが悪くて、本当にすみません……。

素敵なリクエストをありがとうございました!リクエスト下さった方のみお持ち帰りして下さいませ^^



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