DQ

□其れが恋だと気付くまで
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俺はローレシア城の王子、ローレン。
そして伝説の勇者・ロトの子孫だった。でも、俺は呪文が使えなかった。それは俺にとって何ともいえない屈辱と言うか、恥というか、圧力と言うか――言葉に出来ない苦しみだった。
その上次期国王だと、物心付いた時――いや、幼い頃から周りの者に言われ続けてきた。
毎日毎日、王族としての勉強や剣の稽古(剣術の稽古は好きだけど)、そして城から一歩も出られない状況で窮屈だった。

城から街を見たくても、広くて仕方のない自分の部屋にある大き過ぎる窓から城下町をチラリと横目で見るだけ。
行き交う人々の表情は、幸せに満ち溢れていた。平和に暮らせていて嬉しいと思う反面、自由に生きていける彼らを見て羨ましいとも思っていた。

そんなある日、窮屈な毎日に嫌気がさしていた俺は城を飛び出した事があった。
確か、あれは5歳くらいの時だったかと思う。
部屋の見回りをしている兵士達にバレない様、王族には見えない旅の服を着て自分の部屋のバルコニーからひっそりと抜け出した。
バルコニーの柱やら何やらを伝い、城の裏庭から外へと多分生まれて初めての外の空気、世界を感じた。
また、ローレシア城は海に近い為、浜辺へと近づく。
近づけば近づくほど潮風のあの独特な匂いが鼻をくすぐらせる。
気付けば、自然と涙が頬を伝っているのが分かった。生きていて良かった、とそう想っていた。

そんな時だった。――暫くすると、草原の辺りから女性の悲鳴が聞こえた。
咄嗟に声がするほうを振り向けば数十メートル先に、スライムやらに襲われている俺と同じくらいの少女が居た。
戦う事に慣れていないのだろうと思った俺は、腕試しにと少女の元へと駆けた。


「――大丈夫?怪我はない?」

「え!?あ…うん。」

「…なら安心だね。僕が代わりに戦うから、後ろに下がってて。」

危ないから、と何故だか自然と笑顔をうかべていた。
少女は顔を俯き、ありがとうと呟くようにして二歩程後ずさった。
スライムとおおなめくじだけだった為戦闘はあっさりと終わった。
ふう、と小さくため息を付くと少女は遠慮がちに近づいてきた。

「……ごめんなさい。迷惑かけちゃって…強いんだね、冒険家なの?」

「気にしないでいいよ。……うーん、まあ、そんなものかなぁ」

本当は王子だけど、と心の中で呟く。そしてハッとした。俺は今旅人らしい服を着ているから、王子としては見られないんだと。
それに俺は滅多に外へと出させて貰えなかったから俺の顔を知らないのだと。
ほっと安心したような安堵のため息を付いた。

「本当にごめんなさい、旅の途中だったのに…引き止めちゃって、」

「き、気にしなくていいよっ!」

少女のしょんぼりとする顔に、俺は何故かあの時胸が高鳴った。

「……ねえ、キミって何処に住んでるの?ローレシア?」

「…ううん、私はリリザって町に住んでるの。」

リリザ。聞き覚えのない名前に俺は首をかしげた。
あの時の俺は地形なんか全く分からなくて、直ぐ西にあるリリザすら耳にした事がなかった。
今思えば、勉強不足というかただのバカというか…。

「…知らないの?」

「…あ、……最近この辺来たばかりだったから」

ははは、と苦笑い。
咄嗟についた嘘。正直われながら今も昔もこの嘘だけは素晴らしいと思える。

「…そうなんだ。――独りって、寂しいよね。」

少しでも気を抜けば消え入るかのように呟かれたそれ。
俺は一瞬目を見開いた。

「……うん、寂しいよ。」

少女は海を見ていた。その横顔は、今にも泣き出しそうな表情をしていた。
俺はそんな彼女を見ていられなくて、つい俯いてしまった。

「…あのね、ローレシア城の王子ってね、いつも城から出た事が無いんだって。」

俺はその言葉に、一瞬にして頭を上げた。彼女は淋しげに微笑んでいた。

「!」

「私ね、王子様に会いたい。会って、“貴方は一人じゃないよ”って言ってあげたい。
…あ、でも私王女様とかじゃないから会えないか」

ダメだね、と淡く微笑む少女に俺は気付けば涙をこぼしていた。

「ど、どうしたの?!どこかイタイの?」

「……ううんイタくないよ」

胸が、痛いんだ。
どうしてなんだろう、どうして、どうして分かってくれるんだろう。
この子は、俺の気持ちが分かってるんだ。
心の中で、俺は何度も何十回もありがとうと言った。ありがとう、本当に。

「あ、まだ名前聞いてなかったね。なんていうの?」

「俺はローレン。」

「ローレンかあ。ローレシア城の名前に似てるね。私は玲那だよ。」


ローレシア城の名前に似てる、か。
今思えば、竜王を倒したと言われているロトの勇者の子孫の妻・ローラ姫からローレシアという名前がついているのだから当然といえば当然だった。
よろしくねと手を差し出した玲那。
俺は戸惑いながらも、彼女の手を優しく握った。

「私はリリザに居るから、いつでも遊びに来てね!――またお話しましょう?」

にこりと笑顔を浮かべる玲那。
俺は思わず力強く頷いた。

「…じゃあ、もう帰るね。今日はありがとう、またね!」

手を振る玲那。ばいばい、と寂しげに言う彼女の表情に目を奪われ、俺は返すのを忘れてしまっていた。
…玲那か、忘れるものか。
俺は彼女の名を心の中に深く刻み込んだ。


いつか、また会える日を待ち望んで。



――――

DQ2のローレシア王子初夢です。

一応これは中編というか…続きますのでごゆるりとお楽しみ下さいませ。
 

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