Etc
□可愛い君
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放課後。
友達と歩いていた風早は昇降口についた瞬間、教室に忘れ物をしていた事に気付いた。
「わっ…悪ィ、俺忘れ物しちゃったから……先帰ってて!」
「お、おう。…お前はどーすんだ?」
「俺は後から帰る!!…んじゃーな!」
「おう、じゃあな」
(や、やべぇ…ピンの奴に怒られちまう!)
風早は内心焦りながら教室まで急いだ。
***
教室の扉を乱暴に開き自分の席まで走ると風早の後ろの席の、風間碧亥が昼寝なのだろうか、眠っていた。
「……風間……?」
しっかりと瞑られている瞼。白くて綺麗な肌。茶色いけど校則違反には違反しない程度の茶髪、そして規則正しい寝息。
――全てが俺を誘っていた。
「…お、おい…風間。起きろって…」
「…ん」
風邪引くぞ、と苦笑いを浮かべつつ彼女の肩を揺さぶった。――すると瞳をゆっくりと開いた。
「…ふわぁっ……! う、嘘…いつの間にかこんな時間に…」
寝起きだからなのだろうか、寝癖がぴょんと立っていた。
そんな寝癖も凄く可愛らしくて、慌てている姿もとても可愛くて。
「………わいい…」
「へ?…風早君何か言った…?」
「えっ!…お、俺なんか言ってたか?!」
「ごめん……よく聞き取れなかった」
ほ、と胸を撫で下ろし、安堵の溜め息を吐いた。
――良かった、バレてねぇ。
「ところでどうして寝てたんだよ?この時間がねみーのよく分かるけどさ」
「…いやぁ、龍の話聞いてたら眠くなって〜…。
龍さ、何かボソボソ喋るじゃん!言っちゃ悪いけど!!」
――“龍”。そうか、そうだよな…ガキの頃から一緒なんだもんな。
でも俺の胸はチク、と痛んだ気がした。
「……あ、あぁ。そうだな」
まともに話なんか聞けなかった。――っくしょう、何で他の男の話をすんだよ。しかも笑顔で!
…可愛いから許すけどさ。でも他の男の話聞くのって結構辛いな。…聞いてねえけど。
「………風早、どしたの?」
今日の風早ちょっとヘン、と怪訝そうに俺を見た。
う………あーやばい。すんごい照れる。目を合わせられなくてつい俺は目を逸らす。
「…んでもない…」
はぁ、と溜め息をつきつつしゃがみ込んだ。――何だ俺、カッコワリーな。
赤く火照った頬を少しでも冷ます為に、俺は頬に手を当てた。うわ、超熱!
「…………そう。じゃあ私帰る」
未だに怪訝そうな顔をして、風早を見ていた。
そして出て行こうとする碧亥の腕を咄嗟に掴んだ。
「!?…ど、どーしたの…」
目を丸くして風早を見つめる。風早は少し気まずそうに視線を再び逸らす。
「……風早…?」
「……俺、俺…………俺、風間の事好きなんだよ!」
「なっ!……ほ、ほんと…?」
「……あぁ、ほんと」
頬を赤くさせて、気持ちを告げた風早。彼を見つめていた碧亥もつられて赤くさせ、俯いた。
「わ……私も好きだったけど……」
「まじ!?」
「う、うん!でも爽子ちゃんの事、ずっと好きだったんだと思ってた…」
「黒沼は友達としての“好き”!…風間は恋愛としての“好き”!
…うっわ何かスッゲー恥ずかし…」
手で真っ赤になった顔を隠した彼を見て、くすくすと碧亥は笑い出した。風早は目を丸くした。
「ふっ……風早可愛いんだけど…!っふふ……。」
「かっ……!?ど、どこが!…お、俺ずっと他の男子に嫉妬してたんだからなぁ?!」
碧亥は目を丸くして、そして笑った。
「風早カワイー」
「ね、ねーよ。……お前の方が可愛いし!
ってゆーか、俺の事も名前で呼んでくれよ」
「? 風早」
すると風早は肩を落とした。
「ちーがーくーてー!!翔太って呼んでくれよ!!」
「…ああ。分かった、風早」
「……ちがーう!!」
ついつい風早ははぁ、と溜め息を付いた。
そんな彼を見て、またくすくすと笑い出した。
「じゃあ、そろそろ帰るね、ばいばい」
「………分かった、じゃーな」
「うん、じゃあね。また明日ね!」
「………おう。(結局名前で呼んでくれなかった……)」
風早は少し落ち込みつつ、教室から出た。
教室を出た瞬間、先に教室を出た碧亥が突然彼を大きな声で呼んだ。
「ねーッ!」
「ん?」
「翔太、好きだよ!また明日ねっ!!」
「!!!!」
可愛い君
((や、やべえ))
((また惚れ直した))
君届にハマった
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