student life

□もしもセツナが不思議の国に迷いこんだら
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それはある日の午後のことでした。
おやつのクッキーを食べ終え、親に留守番を頼まれたセツナの視界の端に、なにやら白い物体がうつったのです。
気になったセツナが窓を見ると、そこには白い耳を生やした少女が、時計を見つめてなにやらぶつぶつ言っていました。



「もうこんな時間!あぁ、もし魔法が存在したらなぁ…箒に乗って飛んでゆけるのに!」



薄桃色の髪を揺らして騒いでいるそのウサギに、セツナは別の感情を抱きました。

(うまそう…)

ひょっとしたら、今晩のおかずになるかもしれない。ウサギのステーキ、ウサギの天麩羅、ウサギの…
そうしたら誉められるかもしれない。昔みたいに頭を撫でてもらえるかもしれない!
じっと見つめるセツナに気づいたウサギは、一瞬目を開くとすぐに駆けて行ってしまいました。



「あ、え、ちょっと待って!食材!」



大事な食材を逃がしてしまったら大変です。セツナはウサギを追いかけて、近くにあったマンホールに飛び込みました。
これが、すべてのはじまりでした。





孤高のアリスと昼夜の住人





マンホールの中は、真夜中の海に黒の絵の具を溶かしたように真っ暗でした。でも、その広さは海の様に無限ではなく、また本来のマンホールの様に体がやっと抜けられる程の大きさでもありません。それに、手を伸ばせば届きそうだという距離に、まるで鉛筆を押し込んだ様な、丸い穴が開いています。所々にあるそれは、暖かな光をだしていて、ちょうどそれはこの世界の星の様でした。ただセツナ自身からも光が出ているらしく、人工的なその光は星を遮る街の灯りそのものでした。

(奇麗…でも、この星の人達は淋しくないんだろうか)

立っている地面は自分では見ることができない。でも街の灯りが眩しくて他の星を見ることもできない。そんな人達はきっと、悲しいんだろう。こんなにも暖かい光を、見ることができないのだから。
セツナはそう口の中で呟きました。もし声を出したら、この世界が壊れてしまうような気がしたからです。
ゆっくりと上昇してゆく景色は、落ちるにつれてだんだん白い霧がかったものに変わってゆきました。それが、この世界は終わりだということの合図なんだろう、とセツナは思いました。同時に、なんだか瞼が急に重たくなって、セツナは目を閉じてしまったのでした。











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