過去の貴方と未来の僕1

□33.鬼ごっこは助け鬼が楽しい
1ページ/1ページ

桂がほんの少し懐かしむような声を出した。


【鬼ごっこは助け鬼が楽しい】
〜タイムスリップ・33〜


定春のヨダレ塗れになった3人は素早くシャワーを浴び、途中で起きて来た神楽を加えてソファに座っていた。
目覚めたばかりであまり状況が掴めない神楽は疑問の浮かんだ顔を桂に向けて尋ねる。

「何でヅラがいるアル。エリーはどうしたネ?」
「ヅラじゃない、桂だ。エリザベスは留守番だ。俺個人の話だからな」
「とか言いながらあのオッサンが起きなかっただけだろ」
「オッサンじゃない!エリザベスだ!!」

この際どうでもいい、とその話を切り捨てた銀時は高杉と神楽に外へ行くよう指示した。
首を傾げる二人。
銀時はダルそうに二人にお金を渡した。

「ジャンプ買ってきて。お釣りはお前らにやるわ」
「珍しいアル。銀ちゃんがお釣りくれるなんて!天変地異の前触れアルかッ」
「喧しい!いいからさっさと行って来い!」
「行くネっ晋助、定春!」
「あ、あぁ」
「わんっ」

少し不安そうな視線を向けていた高杉の頭を優しく撫でていってらっしゃい、と言ってやればほっとした表情をして神楽に手を引かれて出ていった。
銀時はそんな二人と一匹を見送った後、首をコキッと鳴らしながら桂の座るソファの向かいに座る。
桂がほんの少し懐かしむような声を出した。

「俺たちにもあんな時期があったな」
「・・・餓鬼の頃の話だろ」
「あの頃は本当に・・・何も知らない子供だったな、俺たちは」

銀時、桂、そして行方不明となっている高杉は松陽の元で共に様々なことを学んでいた。
同じ場所に居ながらもそれぞれ別々の方向を向いていた三人。
見据えるものが違えば自然と向かう道も変わってくる。
気がついたらものの見事に三人はそれぞれ違う道へと進んでいた。
だが、それでも共に過ごした時間だけはいつまでも心にあり続けていた。
何も知らない無垢な子供だったあの頃のことを昨日の事のように思い出す。
そして、何も知らなかった自分が歯痒くて、愚かしくて、腹が立ってくる。
松陽がやろうとしていたことに何も気付かず、のうのうと生きていたあの頃が。

「銀時・・・俺はあの頃と何一つ変わっていない。先生が居なくなって泣いていたあの頃と同じだ・・・」
「・・・・・・」
「高杉が・・・いなくならないと思っていた存在が目の前から消えたと思うと、こんなにも弱くなってしまう・・・」

両の手をしっかりと握り締めた桂がそんな言葉を苦しそうに呟いた。
いつもの図太い神経のキャラではなく、本来の桂の繊細な性格が彼の心をきつく締め付けている。
銀時は今にも泣き出してしまいそうな桂をちらりと見て、ため息をつきながら頭を掻く。
ぽんっ、と目の前で俯く綺麗な長髪の頭に手を置いた。

「・・・!」
「鬼ごっこ、得意だったろ。お前」

唐突に紡がれた言葉に桂は目を丸くして銀時を見る。
窓の外を見ている銀時の意図が窺えない桂はしきりに首を傾げた。
銀時はそんな桂を無視し、淡々と言葉を発する。

「俺たちがいくら分かりづらいところに隠れたってすぐに見つけてよぉ・・・しかも逃げてもいつまでも追っかけてくるし・・・お前が鬼の時はホント、つまんなかったわ」
「・・・?」
「だからよぉ、アイツのこともあの頃みたいに見つけてやれよ・・・俺は鬼ごっこの鬼、苦手だから」
「銀時・・・」

彼なりの慰め。ぶっきら棒というか分かりづらいそれはどうにも理解しがたいところはあるのだが今の桂の心を晴らすのには露骨過ぎるほどに優しい言葉だった。
桂はそうだな、と立ち上がって銀時に礼を言った。
未だ外を見つめている銀時はひらり、と手を振る。
銀時らしい反応に桂は微笑み、玄関へ向かおうとして立ち止まった。

「銀時。お前も鬼だぞ。陣地はしっかり守っておけよ」
「へいへい、こっちの守りは任せとけ。・・・ドジ踏むなよ。地獄までは探しにゃいけねぇぞ」
「・・・ふ、お前もな」

ちらり、と視線をやった桂は黒い長髪をなびかせ、颯爽と万事屋を後にした。





2010/03/10 潤

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ