過去の貴方と未来の僕1

□32.子供の頃に甘えておかないと大人になって後悔する
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優しい銀時に高杉は少しくらい甘えてもいいだろうか、そう思い小さく手を伸ばそうとして固まった。


【子供の頃に甘えておかないと大人になって後悔する】
〜タイムスリップ・32〜


朝一番に叫ばれ、高杉は華奢な肩を大きく揺らし目を見開いた。どうやら今の一声で目が完全に覚めたようだ。
キョロキョロと辺りを見渡し、眉間にシワを寄せて上目遣いで未だ信じられないといった風の桂を見つめた。
二人の間に長い沈黙が流れる。
当事者達にとっては長い時間だったのだが、実際には銀時がトイレから出てくるまでのほんの数十秒のことだった。

「何やってんの?」
「銀時!」
「貴様、これはどういうことだッ!!」

銀時が現れたことによってほっとした表情を見せた高杉は銀時の方へ走り、彼の影に隠れた。
元の世界の幼馴染によく似た人物を目の前に高杉は戸惑った表情を浮かべていた。
やはりここの世界の人物はどうやら高杉のいた元の世界の人物と瓜二つの様で、見つめる先に居る桂もあの口煩い幼馴染と同じような容姿をしていた。
桂がなんとも複雑な表情で銀時と彼の後ろに隠れるようにしてこちらの様子を伺っている高杉を見た。
銀時が頭を掻きながら高杉がここに来て何度も説明した通りに桂にも事情を話す。

「何?高杉ではないとはどういうことだ。クリソツじゃないか。嘘をつくにももう少しマシな嘘はないのか」
「嘘じゃねぇからこんな話になってんだろ?いい加減にしろよ、もう読者も飽きてきてんだよ。何回目だと思ってんの?納得しやがれ」
「煩いぞ、銀時。もしかしたらここから読んでいる読者もいるかもしれないだろ?忘れてしまっている読者もいるかもしれないだろ?俺の親切心がわからんのか、この馬鹿者が」
「馬鹿に馬鹿って言われたくねぇんだよ。いい加減にしねぇとそのヅラ取るぞ」
「ヅラじゃない、桂だ!」
「だからヅラなんだろうが!!」

本気で喧嘩を始めそうな二人を高杉がアワアワと止めようとするが、二人の視界に(小さすぎて)入っていないのか中々止めることが出来ない。
仕方なしに神楽が眠っている押入れの下で同じように眠っている定春を起こし、高杉は行け、と小声で指示した。
すると定春は高杉に一度擦り寄ってから喧嘩をする二人の下へノシノシと向かって行き、ぱくり、と頭から噛み付いた。
そして万事屋に大きな悲鳴が木霊した。


「状況は分かった。そんな奇怪なことが起きるとは・・・やはり天人が関係しているのだろうか?」
「あーん?何で天人が関係してんだよ?」
「状況が状況だけになんとも言えないが天人の技術を駆使して作られたターミナルは高エネルギーによって時空を歪め、大気圏へとワープする。その際に乗じた時空の歪みによって彼が異世界から飛ばされてきた、というのは考えすぎだろうか」
「時空の、歪み・・・」

桂の意見に銀時は考えられるな、と顎に手を当てて唸った。
二人とも定春のヨダレでデロデロである。
高杉はそんな二人から距離を置いた状況で桂の意見に耳を傾けていた。
桂が高杉を見て、目を細める。
切なそうに細められた瞳に高杉は時々銀時が向けてくる瞳に酷似しているな、と思った。

「高杉君は・・・やはり片目を失っているのか・・・」
「・・・?」
「いや・・・こちらの高杉晋助と言う男も君と同じように左目をなくしているのだ」
「そ、なんだ・・・」

そっと自分の左目を覆う眼帯に手を添えた。

高杉の左目は父親の暴力によって失った。
幼い頃から自分に暴力を振るってくる父親。
それをボロボロの格好で涙を流しながら見つめ続ける母親。
そしてそんな父の暴力を真正面から受け続けた少年。
こんな家庭が崩壊することなんて時間の問題だったのだ。
母親は子供を連れ、家を出た。
ただ一度も振り返ることなく、母子は父親の下を去った。
母親は何度も言った。

『あんな人、好きになるんじゃなかった』

と。
時々母親の自分を見る目が険しいのはそんな父親の面影が自分の中にあるからだろうか。

高杉はそんなことをふと、思い出しながら眉間にシワを寄せていた。
銀時がそっと高杉に近づく。
見下ろす視線と目が合った。

「お前はお前だろ」
「・・・!」
「お前は高杉晋助。こっちの高杉晋助とは違う。誰とも同じじゃない」
「・・・・・・」
「だからさ、お前はお前らしくいろ。変に気張ったりなんかすんな。そっちの方がよっぽど変だぜ?」

ぽん、と頭に置かれた優しくて大きな手に高杉は視線を下に向けたまま小さく笑った。
優しい銀時に高杉は少しくらい甘えてもいいだろうか、そう思い小さく手を伸ばそうとして固まった。
見下ろす銀時の笑みが悪戯の成功した子供と同じだったからだ。
高杉は何か思い当たり手を乗せられていた頭に触れ、ねちょっ、とした感触に鳥肌を立てた。

「これで高杉君も俺たちの仲間だね」
「〜〜〜ッ!!」

銀時は定春のヨダレの付いた手をこれ見よがしに見せつけ、にやぁ、と笑みを浮かべた。
自分の手に定春のヨダレがたっぷり付いた高杉は怒りを露わにし、銀時を追いかけて万事屋を走り回る。
ゲラゲラと笑う銀時に懸命に追いかける高杉。
いつの間にか高杉の顔にも笑みが浮かんでいた。
先ほどの小さな笑みではなく、口を大きく開いた満開の笑顔。
銀時のぶっきら棒な優しさに高杉は小さく感謝しながら、そんな思いも込めて一発殴りつけたのだった。





2009/12/13 潤

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