□死亡願書届
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 頭が痛い。がんがんと痛む。
 朝起きて、最初の印象はいつもそう。
 理由の解らない痛みにいつも頭が破裂しそうになる。
 きっと、割れる事なんてありえない。けれど、不快にさせるには充分な痛みの量。

「行ってきます」
 
 きっと、寝てるんだろう。返事はないから、そう思い込む事にした。
 この家にいる限り、僕はずっと醜いままだと、自分勝手な脅迫観念が纏わり付く。
 早く死んでしまえたら。
 死ねないくせに、考えてる。
 前に進めないのは当然の事だった。


 家を出て外をぶらつく。
 といっても少ない金を使ってコンビニでジュースを買い、いつもの公園に行くだけだ。
 ベンチに座って俯いていた。空はあまりにも広くて寛大だ。責め立てられているとさえ感じてしまう。

「いつまでこんな生活が続くのだろう」

 憂鬱、でしかない。
 いつまでもこんな生活は続かないだろう。
 早く仕事を探さなきゃ。
 早く仕事をするんだ。
 じゃあ、なんで行けなくなるの?
 自問自答は繰り返しても答が出ない。
 だけど、誰かが助けてくれる程、この世界は甘くなかった。

「死にたい奴は死ねばいい」

 そんな言葉が、歌のようにリズミカルな声が、風に乗って聞こえた気がする。

「お前はこの世に必要ない」

 とても軽快なリズムで、子供達も歌いそうなメロディーで、男なのか女なのか理解出来ない声。

「さっさとこっちに来なさいな」

 こっち、とは何処なのだろう。辺りを見回すが人影はない。
 平日の昼前にこんな寂れた公園にいるのは僕だけだから。

「さっさとこっちに来なさいな」

 立ち上がり、声のする方に足を進める。
 その先は人がいないのだけど、歌に釣られて、公園を後にした。

「あんよが上手なだけの人」
「おつむが弱いだけの人」
「みんながおまえを笑ってる」
「死にたきゃ死ねばと笑ってる」

 もしもこれが幻聴なら、いやその可能性は多大にあるのだけど、僕はいよいよ狂ってしまったのかもしれない。
 ひたすらに歩いて十分が経つ。
 いつの間にか知らない場所に僕はいた。
 ただ、目の前には役所の看板を掲げた古いビルがある。
 今にも壊れそうで汚い、廃墟のようなビル。
 けれど、歌はそこから聞こえていた。



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