□死神の詩
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 常日頃から感じるのだが、人間というものはまるでびっくり箱の中身のようだ。素っ頓狂な行動に驚きはするが、その実、中身はなく薄っぺらい。後々に記憶として蘇りはしないだろうと確信してしまうほどに興味の薄れる生物だ。
 それならばいっそ犬や猫といった愛玩動物の方がどれだけ意味があるだろう。彼等は浅ましく、恥じらいを知らず、心を持たない。けれど絶対的な空間をいつでも持っていて、その空間に入る者を自己が拒絶しない限り、癒しという名の雰囲気をくれる。
 本当に呆れる、忌々しい事実だ。私達死神が、過去、人間だったなんて、戯言だと嘲笑いたい。

 人間界の時間軸にて午前七時。今日の仕事はどっちだろうと首を捻る。すると、頭の中に伝達係からの指令が届き「嗚呼また"鎌"か」と、溜息がそれとなく漏れていた。
 私個人としては"鎌"であろうと"調査"であろうとどうでもいい。なにせ両方に共々それ相応の苦痛が伴う。
 "鎌"に至っては醜い肉塊を見る嵌めになる。死神に魂を根っこから刈り取られる人間の末路はどれも悲惨だ。罪悪感などかけらも無いが、不快にはなる。
 "調査"は肉塊を見る事は無い。が、人間を見続けなければいけない。これは精神に対しての拷問といえる。
 死神のどれもが私みたいな存在とは言わないが、話に聞く限りだと全ての死神が人間を下等と認識しているようだ。
 中には無差別に人間の魂を刈り取る死神もいるらしいが、私の知る所ではない。魂の秩序を乱したとして罰を受けるらしいが……私には関係が無い。

 頭の中に地図が見える。人間の言うテレパシーの類なのだろうが、早い話が携帯電話のような物。
 基本的に事務作業にしか使われないこの能力だが、たまに同僚が暇つぶしにと信号を発してくる。私には暇つぶしで人と話す趣味はないから信号を遮断するわけだ。だが、特定の相手からの電話に限り拒否できない。つまり、私達死神は死神でいつづける、ということになる。
 送られてきた地図の一ヶ所は赤く点滅していた。なるほど、此処が今回の現場か。
 誰にともなく納得すると、私はその場所をイメージし、念じてみる。十秒もしないうちに事はおこった。

「よしよし、着いた……よな?」

 首を傾げたのには理由があった。私がいる位置は海の上。足が海面につくかつかないかの所なのだが、ぐるりと見回しても海、海、海。三百六十度海なのだ。
 そして、人影は見当たらない。
 情報伝達ミスだろうか?
 稀にそういうことはある。頭の中にもう一度地図を置いて、私がいる位置と統合してみる。目的地は赤で、私がいる位置は青。そして地図上の光は紫になっていた。
 間違ってはいないらしい。
 もしかすると海の中のかもしれない。そう思い、体を水につける。その瞬間、足にひんやりとした感覚を感じ、情けない悲鳴をあげて体を上に戻した。
 足からは海水がぽたぽたと滴っていて、裾の部分が濡れていた。

「そんな馬鹿な」



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