現代BASARA

□Please kiss me.
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色とりどりのライトが全て落ちても会場内の興奮めいたざわめきはしずまらなかった。
ざわめきが、一つの波になるように声が挙がる。
一度去った波を呼び戻すように祈りを込めた声が至るところから上がり一つに纏まる。
 うねるような声につられるように淡くも一閃するライトの光が舞台を照らせば、一つの波だった声が、悦びに満ちた高い歓声に変わる。

光りに入るように一人の男が、姿を現して歓声を挙げている方に向けて手を上げる。
 歓声は一層激しくなり、ライトに当たらない辺りにも数人人影が見えると、更なる歓声に舞台は包まれた。

 ライトを浴びていた背の高い青年が、銀色の髪をキラキラと光らせてスタンド
にささるマイクを手にして叫ぶ。
「野郎ども〜今日も良いステージだったぜ!」
 彼の叫び声に合わせて、曲が奏で始めた。
 アンコールにふさわしい乗りの良い曲である。




「お疲れ様〜っ」

 肩で息をするようにしているメンバーににこやかに笑うオレンジがかる茶髪の青年は、今まで演奏をしていたとは思えない程に爽やかだ。
「身体を冷やさぬようにな…。」
 ひやりとした声が、ステージから戻って来たメンバーに掛けられた。
「お、元就来てたのかよ。」
「社長と言え馬鹿者。」
 銀の髪の青年が、声を掛けてきた茶色い髪の青年に向けて明るい声を掛けた。
「…全く貴様は学生気分が抜け切らぬ……。伊達…此方に来るが良い。」
「………?」
 他のメンバーより若干子供の顔をした人物を手招きすれば、一瞬片眉を上げた黒の革のベルトを付けた眼帯をした人物が、無言でやってきた。
 何だと言いたげな隻眼に先程まで冷たく言葉を発していた青年は、僅かばかり表情を崩すと優しく頭を撫で、次いで蒸された白いタオルを少年の面影強い顔に付けた。
 正しくは顔の下半分ではある。
「今日も良く頑張っていたな…あの男からの不埒な行いも、舞台上では騒ぐこと叶わぬ故に必死に我慢しておったな。」
「っぶは…に、兄ちゃん…痛いって。」
ゴシゴシと汚れを採るように力を込めて拭かれては、皮の薄そうな彼には痛みを与える。
「おい、コラ元就テメェ人を病原体扱いしてんじゃねぇよ。」
銀髪の青年が奪うように抱き抱えると、痩身の身体は軽々と宙を飛ぶようにして腕の中に収まった。
「長曾我部、貴様病原体そのものではないか…。」
「そうだよ、そうだよ。元親は政宗とキスしてさ〜!!俺はドラムで動け無いのに〜!」
「そうで御座る!某とて政宗殿と、せ、せせ、接吻をしたいで御座るのに!」
食べ物を抱えた二人のくせ毛で長髪の二人は、此処ぞとばかりに文句を囃し立てた。
「コラ!二人とも立ちながら食べない!食べながら話さ無い!!」

にこやかだった青年は、まるで母親のような口調で二人を叱りつける。
「うぬぬ…すまぬ佐助、しかし某政宗殿とチュッチュッと、したいで御座る。」
「そうは言ってもね〜…政宗ちゃんはどうなの?」

「俺………?」
指された本人は、きょとんとして自分を抱上げ、周りを威嚇する青年を覗き込むように顔を上げる。
「う〜ん…と、ステージ盛り上がるってので一応兄ちゃ…社長も了承してるパフォーマンスだと思うんだけど…。」
 ヴォーカルである銀髪の青年この隻眼の少年の面影ある青年とが、演奏の合間にするキスやスキンシップという名のイチャツキにステージが盛り上がるのは確かだし、一部の女性ファンはそれを目当てに来ているのは確かだ。その為、ステージ終了後にはこの状態だが、禁止されたことは無い。
「なれば…!」
「一応…ヴォーカルとギターリストがすんのがセオリーなんだろ?誰とでもすんのは逆に客引くぜ?」
 社長の弟…血は半分も繋がらない従兄弟にはなるが、流石にそこは経営の血がキッパリとビジネスを伝える。

流石にそこまではっきりと言われては、納得するしか無いのだが、諦め切れずに二人はむむぅと、口先を尖らせる。
「……………何だよ、んなにしてぇのか…?元親とキス…」
 自由に動き回るヴォーカルが、メンバーとスキンシップをとってみせるものだと思っている政宗は、若干引き気味に文句を言いたげな二人を見て言うが、途端目の前の二人は倒れ、後ろの元親からは断末魔のような唸り声が、横にいた元就と佐助は目眩がしたように額を押さえた。

「What?…どうした……?」

 きょとんとした声に先に復活した長髪を後ろの高い位置で結んでいたドラムの慶次が、床に伏したまま政宗に向かい手を伸ばす。
「俺がしたいのは政宗だって〜〜」
「某も政宗殿としたいと何度も申しております〜」

「俺だってコイツ等としたくねーって!!!」
三者に言われても、男である自分として何が楽しいのか解らない政宗は、首をかしげるばかりだ。

「……はぁ〜…政宗…後で我の所に来るが良い。」
「……うえ…」
 仕事中にも関わらず、元就が名前を呼ぶのは兄としての説教が待ってるためである。
一応ライブの中日にあの理論的にぐだぐたと言われるのは馴れない。



「分かったな…?」
「うぅ…も、分かったって!」
うんざりした顔で、社長である元就のホテルの部屋から出れば、壁に寄り掛かるように人が立っているのが見えた。
シャツにジーンズというラフな格好だが、スタイルが良いためにお洒落に見える。
「…チカ…!」
とてとてと、側に寄れば手を広げて政宗が来るのを待っていた。
「幸村達と飯食いに行ったんじゃねーのかよ?」
「ん?一応、途中までは皆居たんだがよ…まぁ、幸村も慶次も腹が限界だったらしくて佐助の奴が煩いからって連れてった。」
「チカも行ってれば良かったのに、腹減ってんだろ?…………ってか、アイツラさっき何か食って無かったか?」
ライブ終了直後に舞台袖で用意された甘味をガツガツ食べていたのを思い出して、口元を押さえた。

「………なぁ…チカもっそい腹減り…?」
「ん?まぁ、適度にはな。どうした?」
 エレベーターの前に着いたが、一向に政宗は階下に降りるボタンを押さない。
「ルームサービス…とかじゃ……駄目か…?兄ちゃんの小言の後にアイツ等と飯食ったら…胸焼けしちまう。」
「俺は良いけど…何なら外行くか?」
 一応、ライブのツアー中で地方に出ているなら、その土地の食べ物も食べておきたい所であろう。
「まだ…ファン居るから外は…いい…。」

熱狂的なファンが多い彼等は、宿泊先にまで一目見ようと集まる数は少なく無い。
特に元親や政宗を崇拝するようなファンは少なく無い上に、政宗は更にストーカー染みた男に狙われ易い。


「明日は名古屋のラストだから、スタッフ総出で打ち上げするしな〜。んじゃ、折角だし部屋で飯食うか。」


ニッと、人好きする笑顔を浮かべれば、政宗の表情は明るくなり部屋に戻る為に元親の手を引っ張った。

 この元々バンドは政宗が兄と呼ぶ元就を中心に編成されていたのだが、大学卒
業後今の社長職に就くようになりバンドを抜けてしまった。
バンド自体、慶次や佐助と続けてはいたて人気は有ったが、メジャーデビューはまだしていなかった。
バイトもしていた元親に元就からバイトの依頼が有った縁で知り合ったのが政宗だった。
まだ高校生の政宗は、頭が大変良いのだが、どうも理系に弱いらしく勉強を見てやってくれと言われたのだ。

あの冷徹元就が弟だと言うので、同じようなのを想像していたが、どうやら方向が違っていた。
怒りやすいし、噛みつくような物言いをするが、照れ隠しだたりするだけで猫の仔が威嚇しているようにしか見えなくて可愛らしかった。
何より、人見知りが激しいだけで馴つけば可愛いものだった。

「ルームサービスにステーキ有ったぜ?チカそれにするか?」

部屋の鍵を開けようとする政宗の手を握り、更に隣の部屋の自分の部屋の前に移動させた。
「俺の部屋にとっておきの酒あんだよ。此方で食おーぜ。」
さりげなく部屋に誘導して、オートロック扉を閉めてしまう。
勿論、頑丈なチェーンも忘れない。


政宗はあまりにも綺麗で可愛らしいから、悪い虫が寄って来やすく、元親が家庭教していた時にも、拉致されかかった事もあったのだ。

ホテルのスタッフとは言え、気をつけるに越した事は無い。
政宗の部屋により、見た目が派手な元親の部屋にルームサービスを頼んでも周りは女だと思うため安全なのだ。

「ステーキって…お前胸焼けすんじゃねーの?」
備え付けの椅子に座り、パタパタとメニューを取り出した政宗の頭を優しく撫でれば、日向ぼっこの猫のように目を細めてみせた。
「チカなら平気だぜ?俺サラダと、ポタージュ…と…やっぱりホテルは洋食ばっかりだな〜。」
基本、和食好きの政宗はメニューに困っている顔をした。
「やっぱ外行くか?」
携帯を取り出し、佐助に別行動する事を伝えれば直ぐに返信がきた。
『了解。まだ明日も有るから、伊達ちゃんに無理はさせない事〜。』

パタンと携帯を閉じて、テーブルの上に置いた。

「元親は飯?パン?」
「飯だな。」

直ぐに、政宗の後ろの付き、一緒にメニューを見ながら薄い肩をギュウ…と抱きしめる。
「なんつーか、たまになら外食良いんだけど、ツアーで続くとキツいよな〜政宗の作った料理食いてー。」
「俺も料理してぇ〜かも。」
頬と頬とをすり合わせる元親に政宗は、少し考えてから顔だけ振り返り可愛らしい口吻を頬にした。
「おっ」
「元親…ちゅーしねーの?」
何時もなら二人きりになった途端にすっぽりと、腕の中に閉じ込めて、嫌がろうが口吻をするのだ。
「ん〜〜〜……?政宗俺とすんの嫌じゃねーのか?」
「今更何で?」
キョトンとした声に、うーんと唸り骨が当たる肩に顔を埋めた。
「いや、だってよ。今日…仕事だからするみてぇな事言ってたからよ。」
すんと鼻をすすれば、爽やかな中に甘い香りが入ってくる。
ライブ終了直後に元就の部屋に連行された政宗は、着替えはしていたが風呂に入っている余裕は無かった筈であるのにとても良い香りがしていた。

「……あれは…あぁ言わねーと、慶次や幸村とも…しなくちゃなんねーから。」


「幾ら仕事とは言っても、元親以外とキスすんの嫌だかんな。」

むむっと、口唇を突き出す仕草は昔と変わらない。
そこに元親の厚目の口唇が降りて来て、何度も可愛らしい音を発てた口吻を繰り返す。
「俺も政宗が他の奴にすんのやだぜ。」
ニッと、いつもの『兄貴』らしい顔で笑い、ギュッと強く抱き寄せてきた。
「しねーよ。」

「そっか。」
「ステージですんのは、チカが俺のだって、見せびらかすためだしな。」
チカは男にも女にもモテるから。と、椅子に座る態勢を変えて元親に向かって手を伸ばした。
「んなの俺には政宗しかいねーから心配すんなって。」
伸ばされた手を首に回させると、椅子に座る政宗の身体を腰を抱き上げてしまう。
「うわっ」
「あ〜やべぇ。佐助に政宗に無理させんなって言われてんだけど…マジでしてぇ〜。」
抱き上げられた為に、普段立った状態では触れ合わない互いの腰同士がぴったりと触れる。
「ah〜」
元親の腰辺りに感じる熱が、かなり高い。
「飯は?」
「出来れば後で…。」
幸いまだ注文はしていない為に、最中に届けられる事は無い。
「うー…」
「政宗頼む。マジで…」
年下に必死に懇願する姿は、ファンに知られている姿とはかけ離れたモノである。
勿論、懇願しながらも脚はキチンとベッドルームに向かっている辺りは噂通りである。


「……明日のライブ…何時もよりすんげーキスしてくれるか?」
「……………はい?」
「駄目なのかよ。」
「あ、いや喜んで!」

交換条件に成らないのでは?と、思いつつ元親はコクコクと景気良く頷いた。



次の日の名古屋の3Daysの最後のライブには、ねっとりと舌を使って口吻をする二
人に、悶絶するファンが多数いた。
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