現代BASARA

□夢の花
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「おはようございますアニキ〜!!」
「おはようございますアニキに竜のアニキ!」
低い男の声での盛大なお出迎えだ。
クラスの連中に慕われる元親をクラスの男子は『アニキ』と呼んでいた。
女子は…相変わらず引いた状態で、遠巻きに見ているだけだ。
「相変わらず朝から盛大なお出迎えだな…。」
窓際の一番後ろの席に座る俺に、前の席に座る女子から淡々とした声を掛けられる。
「あぁ…Good morningかすが。」
「よ。」
長い金髪をツインテールにした俺の一つ前の席のかすがは、俺に話しかけてくれる数少ない女子だ。綺麗な顔をしているが、口数は少なく近寄り難い雰囲気を醸しているためクラスの女子とも話しているのを見たことが無いが、俺としては大変話易い。

「……お前の周りは何時も騒がしいな。」
呆れた口調で、クラスの男子と騒ぐ元親達を見ながら俺に話しかけてくるが、それは多大な誤解だ。
「別に俺は騒いでないからな。いつもアイツラが騒ぎまくってるだけだっつーの。」
「だが、お前が中心には違いない…。」
クスリと笑うかすがの表情は、綺麗なものだ。
佐助が言うには、彼女も前世の関係者らしいが、特に俺には何も言って来ないし
…楽。
「……なぁ、何でアイツラ俺に構うんだ?…気の合う美形同士でツルンでりゃ良いだろうに…俺は釣り合わないから周りの視線が痛くて仕方ねぇ…。」
はぁ〜と長く深いため息を吐いて机に突っ伏したのだが、かすがは随分すっとんきょうな声を上げてから、「何を言ってるのだ?」と呆れた声に変わった。
「……かすが…?」
「何だ貴様の家に鏡は有るのか?それとも魚眼型なのか?それとも片方見え辛いと変わって見えるのか?それとも、単に美的センスの問題なのか?」

「いや…普通の鏡だと…。」
何だこの言われよう…。
整った顔立ちに淡々と怒られるのは流石に怖いんだが…。
「では単なる卑屈なのか、よっぽど自信無いか…か?」


自信…?


きょとりとかすがを見上げれば、細く白い指が俺の前髪を掻き上げて短いため息を溢す。

「意味が解らんという表情だな…。なるほど、そういう事か…。」
そういう事とはどういう意味なのだろうか…。
「お前…あの馬鹿者集団に毎日のように『可愛い』やら『綺麗』だとか言われてるのは何だと思っておるのだ?」
そうなのだ。毎日毎日幸村や元親、慶次は飽きもせずに俺をそう言うが…

俺は…自分の顔をそう思えた事は一度も無いのだ。
「……あんなんからかってるだけだろ…。」
美形を見馴れた人間が、たまにそうじゃない毛色の違う人間を構いたくなっただけに過ぎないだろう。何時かは飽きる。

あぁ…嫌な過去が湧き出るように思い出させる…暗い暗い…過去が…まだ、渡米する前の…片目の光を失った直後の記憶…


もう親戚の誰だったか記憶なんて無い。
元々旧家で親戚は多かったから余計だ。



『…………………』


「……フム…。おいそこの図体の無駄にデカイ銀髪!!」
かすがの声で急に現実に戻されたが、彼女は未だにクラスの男子と騒いでいる元親を呼び寄せた。
「何だよ?………政宗どうかしたのか?」
「残念だが、政宗には今までの貴様等の賛辞はからかいにしか感じておらぬようだぞ?」
ニヤリと人の悪い笑顔を浮かべたかすがは大きな声で元親に話をした。
「……は?…な…何だよからかうって!!!政宗、俺が今まで言ってたの全部冗談に取ってたのか!?」
そう言うと、長い脚をフルに利用して大股で後ろの席まで来ると俺の腕を捻る様に掴み立たせる。
「いっ…て!元親痛いって!!」
強引に立たせた俺の身体を一回り大きな身体の元親が包むように抱き締めてくる。
「……ち…か?ちょい…待て!離せって!!」
元親の身体で前が全く見えないが、此処は教室だ。きっといつも以上に周りはドン引きしているに違いない。
「からかって何かいねぇぜ!…政宗は綺麗だし、可愛いぞ…」
最初は勢い良く…その後は、消え入りそうに切ない声の元親にそう告白されて、俺ははぅはぅと慌ててしまう。
だっておかしいだろう?
美形で声も頗る良い…あぁ…コイツラ全員声もいんだよなぁ。
そんなふうに言われたらヤバいだろ…う…?いくら男同士でも。

「stopだ元親…マジで止め…ろって、おかしいだろう?お前とかみたいなのが俺を綺麗とか有り得ないだろうが。」
「何でだよ?」
低い真面目な声は、脳髄まで溶かすように甘く響く。
「独眼竜は自分の容姿の良さを全く分かっていないようだぞ?だから釣り合わないと言っておる…。」
「かすがっテメェ!!」

叫ぶ俺の顎が急に捉えられて、顔の向きを強引に変えられ、固定される。
「…おいっ…チカ…!!?……んっ…ふ…ぁ…んっ…ん……」
柔らかいモノが口唇に宛てられた。それが、何度も何度も角度を変えては吸い付いてくる。
必死に鍛えられた元親の肩に置いた指に力を入れても、縋りついているだけのように力が入らない。
せめて逃げるように背を反らし、後ろへ逃げるが、ガッチリと逞しい腕に腰と背を固定されて逃げられずに、背中を弓なりに反らせるだけで元親はしっかり離れないで身を進めて来る。


やばい…すげ…気持ち…い…


「…んっ…っ…」


「…政宗…好き…」


くたりと全身の力が抜けた俺の身体を元親は掻き抱くように抱き締めて囁く。

「あわ…ねだろ…が、お前みたいな美形と俺は…」
はふはふと浅い呼吸を繰り返す俺に掛かったのは元親と…意外な所からだ。
「そんなっ竜のアニキは『美人』です!」
「伊達君美形だよ!!?」
「アニキも恰好良いですが、竜のアニキも恰好良いですよ!」
「伊達君モデルでもおかしくないよ?!」

「な、な、なな何を言ってんだよ!?」
元親の後ろから掛かる声は、元親の舎弟のクラスメート以外にも女子も含んでいた。
おかしくないか…何時もドン引いてたのに…。
何だよこのはしゃいだ声は…。
「伊達君、スッゴい人気あるんだよ?それこそうちの学校は勿論、中等部にも大学もだけど近隣の学校にだってそうなんだから。」
「そうそう、女子校にファンクラブあるんだって!友達も入ってんだよ?」

ファンクラブ?ってなんだよ。

慶次や幸村にはファンクラブがあるのは聞いていた。特にサッカー部のエースで可愛い顔立ちの幸村には自校以外にも有ると…

しかしながら…何で俺の?
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