現代BASARA

□BLACK and White (R18)
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「オメェ…」

街を歩いていたらつけられた因縁…ではなく、沢山の人間が往来する廊下で、低く掠れた声の人間に腕を掴まれて政宗は顔を上げた。

「……は…っ?」

いきなりの事に顔を上げた先には、獰猛な野生動物のような青年。
政宗は彼を知ってはいるが、相手は自分など知らない筈。何かしでかしたのかと思うが、特に思い当たる事は無い。

猛禽類のような鋭く、黒い眼に射ぬかれんばかりに睨まれ、政宗は思わず友人の姿を探した。
加減など知らないように腕をがっちりと掴まれられて、腕が悲鳴を上げ掛かっている。
「……っ…!」
眉を潜めて小さく声をあげても、腕が放れる事は無かった。
「あ…あのっ!」
友人に頼まれてすることになった短期の…僅か5日程度のバイトの2日目に一応雇用主になる人にいきなり睨まれては、どうして良いのか解らない。

周りを世話しなく歩く人達は、気にはなりつつも立ち止まる事は無い。

「なっ…何か?」
「オメェバイトか?仕事何やらせられんだ?」
政宗の言葉途中で、聞いてくる相手は相変わらず腕を話す気は無いらしい。

「えっと…客のチェック…を」

今からチケットを持って入場する客が、カメラやマイク、危険物を持ち込まない為の入口での仕事をするように言われて、広い会場のR入口に向かう最中だった。
最初、B口の予定だったのだが、バイトを頼んできた友人佐助に惚れたらしい女の子に変わって欲しいとお願いされ、その子の担当している場所に行くまでの慌ただしい廊下で捕まった。

「……おい、コイツ連れてくわ。」
グイと腕を掴まれたまま長い脚をフルに利用して青年は、人通りの多い廊下を我が物顔で通る。
「ちょっとその子連れてどうすんの?本番前に…。」

ヤレヤレと額に手を置いた男性は、連れて行くこと事態に反対は無いがため息を吐き出した。
「リハも終わった俺の暇つぶし相手だよ。ま、あとテンション上げ役。」
ニッと笑う青年はテレビや雑誌で見るよりもずっと見目良く、ずっとずっと凶悪だった。

まるで、牽き吊られるようにして着いたのは、『長曾我部元親様控え室』と書かれた部屋。
マネージャーにより人払いされた部屋の周りは、ライブ当日だというのにしんとしていて、遥か彼方から相変わらず世話しない人が動き回る音がしていた。


ポイッとまるで荷物のように長いソファーの上に投げ出された政宗は、痛みに顔を歪める。
「……って〜」

上体を僅かに起こした段階で、政宗の細い身体を足で挟むように乗り掛かってきた青年は、ひどく愉しげに笑っている。
まるで、狩りを楽しむ肉食の大型獣のようだ。

「っ?!な、な、何?」

近すぎる美形の顔に息を飲み、追い付けない思考で声が上擦る。

「言っただろ…テンション上げて貰うって…」
舌舐めずりをする彼は、本当に黒豹のようにしなやかで艶がある。
「て、て…んしょん…って…な…ぐんのかよ…?」
ビクリとするのは仕方無い。彼『長曾我部元親』は、今でこそアーティスト、ロックバンドのヴォーカルなどをしているが、その少し前…まだ学生の時には族を率いてた頭であり、数々の伝説が今尚語り継がれているのだ。
黒い髪に黒い瞳、褐色の肌…全身を色香と血に染めた生きた伝説なのだ。

政宗も彼の歌は何度も聞いた事があり、本来なら客として席に着きたかったが、人気のある彼のライブはファンクラブであっても中々チケットが入手できない。
オークションでは、アリーナの遠い席や3階スタンドでも数万になってしまい、大学生の政宗には手が届かない代物だった。
そこに、高校からの友人の佐助から今回のバイトを持ち掛けられて、音だけでも良いと受けたのだが…。

「…あ"……?何でんな綺麗な面殴らなきゃなんねーんだよ。」
凄味の利いた声に、思わずビクリとなるが、先程の言葉に引っ掛かりを感じて、首をかしげながら相手の顔を見上げた。
「……え…きれ…ぇ?」

「あぁ、お前モデルやってねーの?」
言いながら、尚ものし掛かる身体は、逞しく色気があった。
「まっ…て、俺男だっから!」
最後の手段と言わんばかりに叫ぶ政宗は、手を止めた青年にほっと息を吐き出した。
長曾我部元親と言えば、男は勿論、女にも人気のある男だ。
特定の恋人は持たないが、常に複数の艶のある美女を数人はべらせているのは有名な話な為に、男である自分は範疇外の筈だと、声を上げた。
「おぅ、解ってんぜ。」
「ひぁっ!」
大きな手で撫でるように触れられたのは、政宗自身も矢鱈滅多に触らない下肢部分。
思わず高い声を上げてしまい、慌てて口を手で押さえた。


「ククク…いい声で啼くじゃね〜かよ?その調子で、俺を煽れよ。」

獰猛な肉食は目の前で、己の口唇を血がしたったような舌でペロリと舐めた。
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