ヒトミぐるり
□『好き』
1ページ/14ページ
ゆみこが、私のことを『好きだ』と言った。
私の目をしっかりと見つめ、低い、やわらかな声で。
言い終わると、小さく微笑み、深々と頭を下げた。
…
「ありえない…」
「え?」
トムが怪訝そうに私を見る。
「だから、ありえない」
「何がですか?」
「…ひとりごと」
「はあ」
立ち上がると、かさっと音がした。
「落ちましたよ、オサさん」
「ああ、これね」
紙袋の中身は、ゆみこが家に置いていったコート。
予期せぬ告白に、渡しそびれてしまっていた。
「これ、ゆみこに渡しといてくんない?」
「いいですけど…」
紙袋を受け取りながら、トムが私を見上げる。
「ゆみこさんと…、何かあったんですか?」