『瞳…』
□疑惑
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どうやって稽古場に戻ったのか、覚えていない。
…トウコは、ベンチの上に体育すわりして、私を待っていた。
「お待たせっ」
ことさら明るく、声をかける。
「ワタさん…、何て?」
上目遣いで不安げに見る。
「何にもないってさ」
「そう…」
ひざを深く抱えなおして、つぶやく。
「じゃあ、あやまりに、行かなくちゃ…」「行かなくていいっ!!!」
「ケロ?」
「い、いや、明日一緒に。ついていってあげるから」
「ありがとう。ケロ、やさしいね」
ベンチから立ち上がると、トコトコ歩いてきたトーコは(あ:サイトーくん乱入)、私の胸に、こつん、と頭をあてた。
「大好き…」
…トウコ!!
「やだ、ケロ。どうして?泣いてるの?…あっ」
私の腕の中で、記憶よりもずっと細くなった身体が、もがいたが、私は、ちからを緩めなかった。
…ゼッタイニ、ワタサナイ。
fin